この写真はタイのアユタヤにあるワット・プー・カオ・トンという、高さ80メートルの尖塔をもつ寺を訪れた時に撮ったものです。
この時僕らはトゥクトゥクを一日チャーターして寺巡りをしていたのですが、トゥクトゥクが寺の敷地に入るとすぐに子供たちが集まって来たので、荷台からシャッターをきりました。 子供たちはみな手に古い懐中電灯を持っていて、それを僕に売りつけようとするので僕は「何でこんなところでボロボロの懐中電灯なんか売っているのかなあ。」と疑問に感じつつも、「いらないよ。」と言いながらティップと二人で長い階段を登っていきました。
それでも子供たちはニヤニヤしながら僕らの後について階段を登ってきます。 僕は構わず階段を登り続け、やっとのことで頂上に辿り着きました。 するとそこには下へ降りる通路の入口が、まるで洞窟のような状態で口を空けていて、これまた階段で降りるようになっているのですが、照明設備がないため2~3メートル先の足元すら見えない状態です。 はっとした僕が後ろを振り返ると、さっきの子供たちがニカっと笑いながら懐中電灯を差し出してくれました。
子供たちは「懐中電灯のリース業者」だったのです。 おかげで僕は、こうもりに襲われながらも地下通路の奥にある小部屋で見事な仏教壁画を見ることができました。 子供たちは無言で懐中電灯を差し出すので、旅行者にとってはその意味を理解することは不可能でしょう。 だとすると彼らは日々僕のような異邦人とともにこの高さ80メートルの塔を往復するより他はありません。 懐中電灯のリース代は、そうした彼らの労働に見合うほどのものではありませんでした。
子供たちは頂上に着いた時にビニール袋入りのジュースをくれたり、とても気がきく可愛い子ばかりだったので僕らも仲良くなり、頂上の展望台でしばらく遊んだりしました。 またいつかこの寺をこの写真とともに訪れてみたいと思っています。