これだけの長編四部作を読んだのは三島の「豊穣の海」以来。 毎日少しづつしか読めなかったせいもあるが、読み終わるのに一ヶ月を要した。
本作は、
福井晴敏があらかじめ
映画化することを前提に書き下ろしたもの。 昭和20年、日本が滅亡の危機に瀕していた夏。 崩壊したナチスドイツからもたらされた戦利潜水艦「伊507」と特殊兵器「ローレライ」。 向かった日本軍の根拠地ウェーク島で受けた新たな指令に含まれた謀略。 やがて「伊507」に乗り合わせた男たちは曲折を経て、米軍の大機動部隊が待ち構えるテニアン島にたった一隻で乗り込んでいく・・・。
映画化を前提とした影響もあるのだろうが、個々の登場人物ごとの描写が細やかで、それぞれやや説明的過ぎると感じることも多々あった。 このため読んでいて冗長に感じてしまう人もあると思うが、この「終戦のローレライ」は、小説というよりは脚本的小説と捉えるべきだろう。 並外れた映像センスを持つ作家ゆえのコンフリクトで、むしろ僕は好意的に解釈したい。 小説をひとつのコミュニケーション・ツールと捉えるなら、そこには作家の筆力のみならず読者の読力なくしては成立しないものだ。 したがって「終戦のローレライ」を楽しめるかどうかは、作者が用意した饒舌な「伊507」に、読者の一人一人が同乗する勇気が持てるかにかかっている。 一度乗ってさえしまえばこれほど楽しく、そしてこれほど悲しい艦はない。
エピローグでは終戦当時から現在までを一気にフラッシュバックさせながら、海辺でのラストシーンを迎える。 そのラストに「豊穣の海」の輪廻と転生を嗅ぎとったのは僕だけではないはずだ。 ローレライは、終わらない。