人気ブログランキング | 話題のタグを見る
Top
京都古寺巡礼・後編
 京都2日目、僕らはホテルのフロントで昨日同様市バスの一日乗車券を手に入れ、バスに乗った。 目的地は竜安寺である。 恥かしながらこの僕は、この日が来るまでこの寺のことを「りゅうあんじ」だとばかり思っていた。 しかしながら事実はさにあらず。 バスの車内アナウンスは告げる。 「次はりょうあんじまえ。」 それは「りょうあんじ」なのである。 無知とはこのことである。 今これを書いている時にも、キーボードで「りょうあんじ」と入力して変換すると、ちゃんと「竜安寺」となる。
 石庭で名高い竜安寺、勅使門を通り方丈前庭を望むと、そこには言い知れぬ静寂と緊張が満ちていた。 圧倒的だった。 庭を取り囲む塀の土壁には山水画のような模様が浮かび、石庭を海とするなら、そのはるか向こうでぼんやりとかすむ対岸の風景のように見える。 製作時に、年月とともにそれが土の表面にしみ出してきて模様となることを想定し、材料の土に油を混ぜて練ったと伝え聞く。 偉大な先人たちが思いを込めたこの場所は、古典的な枯山水の庭でありながら今も紛れもない前衛である。 僕は1秒でも長くこの場にいたいという思いを抑えることができなかった。

京都古寺巡礼・後編_b0045944_12352465.jpg竜安寺方丈前庭
圧倒的であった
 興奮に後ろ髪を引かれながら勅使門を出て、境内を散策する。 すると突然視界に白いパゴダ(仏塔)が飛び込んできた。 これまでもタイなどで幾度となく目にしてきた尖塔状のパゴダである。 「何でここに?」 近づくとそこには大戦中ビルマ(ミャンマー)の地で亡くなった日本兵が祀られていた。 終戦後当地から無事復員したこの寺の住職が、かつて苦難をともにした英霊たちのために建てたものであるという。 僕らは合掌し、さらに進んでいった。 すると「ゆどうふ」の看板が現れた。 湯豆腐は竜安寺の名物であるらしい。 どうせどこかで昼食を取るつもりだったので、この離れで湯豆腐をいただくことにした。 通されたお座敷からは手入れの行き届いた庭園が見通せる。 湯豆腐は、味は普通だったが量の多さに驚いた。 いずれにしても、ロケーションがすべての湯豆腐やさんであった。 この他、夏ともなれば睡蓮が咲き誇る鏡容池など、竜安寺は思いのほか見どころの多い寺であった。
 次に訪れたのは竜安寺の近くの仁和寺である。 世界遺産にも登録されている仁和寺は、888年に宇多天皇によって建立されたというのだから既に1,100年以上の歴史がある。 それ以来、明治維新に至るまで皇子皇孫が門跡となり、御室御所としての歴史を重ねてきた格調高い寺なのであった。 左右に金剛力士像が佇む二王門、五重塔、金堂、茶室である飛濤亭と遼廓亭など国宝や重要文化財のオンパレードである。 僕らは入口でお茶券を買い、黒書院の中のお茶席で抹茶と菓子をいただいた。 妻はこの仁和寺が一番気に入っていたようであった。 僕の目を引いたのは、見る者を威圧する二王門の金剛力士像で、その力感溢れるフォルムの一方、足の甲に浮き上がった血管までが見事に表現されていることに驚いた。 神は細部に宿るとはこのことか。

跳ね上げ式の雨戸はそのまま庇になる
 みたびバスに乗り、金閣(鹿苑寺)に向かった。 金閣は修学旅行時の記憶では、表面の金箔も金ピカで、ところどころ剥がれたり傷んだりしていたが、1987年に行われた大規模な改修工事によって美しく蘇っていた。 大量の金箔が用いられているにも関わらず、その表面は光沢を抑えた上品な仕上がりになっており、とてもシックな印象を受けたのである。 銀閣が二層構造なのに対してこちらは三層構造で、三層目は銀閣同様に中国風の禅宗仏殿造なのであった。
 夕佳亭(せっかてい)は数寄屋造の茶室で、有名な「南天の床柱」がある。 しかし何よりも僕の目を引いたのは入口土間にある竈(かまど)で、土を固めた表面に割れた鬼瓦などが無造作に、しかし計算高く配置されていた。 これらの瓦は羅生門のものとされる。 当時から存在するものであるとしたら、いにしえの茶人たちの美意識にはまったく驚かされる。 そのまま順路を進んでいくと、茶所や売店があるエリアがあり、一休さんのお守りなんかも売っていた。 ここ金閣寺は一休禅師ともゆかりの深い寺である。 拝観できる時間が昼間に限られるので仕方がないが、できれば金閣寺は夜間にライトアップされた姿も見てみたいと思った。

京都古寺巡礼・後編_b0045944_1253251.jpg金閣
シックになっていた
京都古寺巡礼・後編_b0045944_12543919.jpg金閣寺
夕佳亭の竈はとてもポップな印象
 古都には早くも陽が落ちてきた。 結果的に今回の古寺巡礼は、銀閣寺(東山慈照寺)、竜安寺、仁和寺、金閣寺(鹿苑寺)の四寺に行くのみで終わってしまった。 冬期は拝観時間が特に短いので、本気で観て回るなら早朝から動き始めない限り数をこなせないことがわかった。 そこで、かねてから妻がどうしても行ってみたいと所望していた錦市場に行くことにした。 錦市場は「京の台所」と呼ばれる商店街である。 その長さは寺町通りから高倉通りまでを東西に貫通する約500メートルに及び、安土桃山の時代から現代まで続くというとてつもない歴史を誇る。 市場や商店街というのはどこでもそうだが、その町特有の食材や惣菜、山海の珍味などが目にも楽しく、旅人にとっては心浮き立つ場所である。 僕の故郷博多にも柳橋連合市場という地元民で賑わう商店街があるが、錦市場はさすが古都らしく上品で、なかでも日頃調理前の状態ではなかなかお目にかかれない京野菜などは当然のことながら量・種類ともに豊富で思わず見入ってしまう。 お惣菜の魚の煮付けや漬け物、練り物の類いは旅の媚薬のせいかやっぱりどことなく京風でおいしそうに見える。 もしこの近くに住んでいたら、毎日ごはんだけ炊いて、おかずは錦市場で買って帰っておばんざいというのも悪くない。

京都古寺巡礼・後編_b0045944_12562846.jpg京の台所 錦市場にて
 修学旅行の京都の思い出はというと・・・。 正直言ってあまり覚えていない。 はっきり覚えているのは、仲間と一緒に歩いている時、通りすがりの武士の格好をしたおじさん(※)が、突然大根を空高く放り上げ、落ちてきたそれを持っていた日本刀で空中でまっぷたつに切るパフォーマンスを披露してくれたことだった。 しかし彼はいったい何者だったのだろう。 僕と同世代の方で、修学旅行で京都に行かれたなら御存知の方もきっといるであろう。 とにかく京都の印象は薄く、僕の修学旅行の一番の思い出は、同じく初めて行った東京は原宿のクリームソーダでサングラスを買ったことと、晴海のホテル浦島の客室でユニットバスを初めて見た時の衝撃などであった。 京都はガキの時分には高尚すぎてもったいない。 だから中高の修学旅行なんてのはディズニーランドとかUSJなんかで統一して、京都は30歳くらいになった時に自主的に行ってみるのが理想だと思う。 今回僕らが体験できた京都はほんの一部だったが、そのことが更に京都への関心を高めることとなった。 古寺巡礼の旅は今まさに始まったばかりなのだ。(2004/1/24出稿を再録)

※この方はジョー岡田さんというサムライ観光ガイドの方であることが判明しました。(2005/6/10追記)
by theshophouse | 2004-11-30 13:01 | Odyssey
<< テレバイダーよ永遠に! ティップ(1992) >>



思うところを書く。
by theshophouse
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
Critique
Asian Affair
蹴球狂の詩
Odyssey
Photographs
Iiko et Tama
Non Category
Food
Mystery
Design
アジア人物伝
Alternative
Books
Movie
Sounds Good
昭和
モブログ日報
F1
号外
Profile
以前の記事
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
2005年 02月
2005年 01月
2004年 12月
2004年 11月
2004年 10月
2001年 10月
フォロー中のブログ
国境の南
osakanaさんのうだ...
青いセキセイインコ推定4...
THE SELECTIO...
V o i c e  o...
わしらのなんや日記
90歳、まだまだこれから...
午前4時から正午まで
藪の中のつむじ曲がり
PISERO しゅうまい...
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧