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ワールドカップ観戦記/Spain×Ireland
 今回のワールドカップにおけるアイルランド代表の戦いぶりは日本人の琴線に触れた。 一部の評論家が酷評しているように、彼らのプレイは単にサッカーとして見ると退屈極まりないものかも知れない。 アイルランドの「伝統」である、執拗なまでに繰り返される愚直なまでのハイクロスの放り込みは、中盤の構成力を求める現代サッカーの中にあっては確かに前近代的なものに見えてしまう。 しかしながら事実僕はアイルランドのサッカーに感動を覚えたし、多くの日本人もそうであったと思う。 サッカーは専門家や評論家のものではなく、我々民衆のものである。 そしてサッカーは、少なくともワールドカップは理屈や戦術だけではなく、国々の剥き出しの魂や闘争心の見本市であってもいい。 今回ベスト4入りした韓国のサッカーについての大方の日本人の印象は「日本よりフィジカルが強く、闘争心・勝負どころを見極める能力に優れる」というものであった。 そして我が日本代表については「技術的には韓国より上回っており、組織力に優れる」という認識を持っていたと思う。 そして我々日本人はそんな日本代表のサッカーを、少なくとも韓国代表のサッカーよりは好きであったはずだ。 しかし今大会の韓国は持ち前の闘争心のみならず技術的にも非常に進歩し、結果最後の最後で闘争心を発揮できなかった日本代表の成績を上回った。 前代未聞の度重なる誤審抜きに韓国のベスト4はなかっただろうが、僕自身韓国代表の頑張りには少なからず好感をもった。 アイルランド代表も同様である。
 フィジカルに頼った体育会的な「熱い」サッカーを良しとせず、技術的に洗練され、その技術によって相手を駆逐する「クールな」サッカーを志向する日本代表と日本人。 このことは韓国のサッカーがドイツ的なものを志向し、日本のサッカーがブラジルと縁深いことからもわかる。 しかし、そんな日本人の多くがアイルランドのサッカーに魅了された原因は何だろうか?
 日本人は本来こうした「熱さ」や「特攻精神」といったものを心に宿しているのだが、戦後のGHQによる統制下から始まる西欧化の過程で、そうしたものを前時代的なものとして廃棄することを余儀なくされた。 よく「今サッカーの強い国はかつて全体主義に陥った経験を持っている」と言われる。 言うまでもなくドイツやイタリアのことを指す言葉である。 であるとするなら、かつて件の国々と日独伊三国同盟の一角を成していた我が日本がいまだにサッカーの一流国になれないのは、こうした精神つまり大和魂を必要以上に心の奥底にしまい込みすぎたためでると思う。
 韓国は日本との歴史的背景や今も続く北朝鮮との紛争から、アイルランドはイングランドとの歴史的背景やIRAによるテロなど、いまだに戦時下同様の緊張を孕んでいる。 両国は常に強大な国家の至近にある弱小国であり続けることで熱き魂を継承してきた。 ユーゴスラビアやチェコスロバキアらかつての東側を支えた大国が予選で敗退したのに、クロアチアやスロベニアといった新興国が本大会まで出てきたのもこうしたことと無縁ではないはずだ。 今回アイルランドが見せてくれたのは紛れもなくこの「特攻精神」であったのではないだろうか。 自分たちより明らかに格上の相手に対峙しても、ひるまずにすべてをぶつけて散っていった彼らの戦いはまさにそれを体現していたと思うのである。
b0045944_23313869.jpg そんなこともあって決勝トーナメント1回戦、対スペイン戦をアイルランドのサポーターと一緒に観たいと思いたった僕は、弟と友人を誘って新宿にある馴染みのアイリッシュ・バー「シャムロック」に出掛けていったのだった。 予想通り試合開始30分前の店はアイルランド人サポーターと僕のような日本人のアイルランド・サポーターでごった返しており、立錐の余地もない状態であった。 また彼らはそうしたぎゅうぎゅう詰めの状態でテレビ観戦することに慣れている。 僕らは「これでは2時間もたない」との判断から奥のテーブル席のスペースに陣取った。
 前半アイルランドはやや守勢に回り、サイドを崩されてモリエンテスにヘッドを決められ1点のリードを許す。 しかし彼らが本領を発揮するのはいつも苦境に立たされてからである。 ドイツ戦で奇跡の同点ゴールを決めたロビー・キーンが何度かゴール前で得点チャンスを迎えるが、GKカシーリャスに防がれてしまう。 後半に入るとアイルランドは更に攻勢を強める。 一方のスペインはラウルとモリエンテスを早々にベンチに下げアルベルダを投入、1点を守りきる作戦にでた。 後半18分、アイルランドは右サイドからダフが突破してペナルティーエリアに侵入し相手ディフェンダーのタックルを受けて倒される。 ダフの明らかなシミュレーションであったが、スウェーデン人でありながらマルボロなんかの宣伝に起用したら絶対ハマりそうな色男のフリスク主審はこれにまんまと騙され、アイルランドはPKを得る。 しかしイアン・ハートはGKカシーリャスに完全にコースを読まれてしまう。 不可解な判定の収支決算は多くの場合トントンだ。 ところが後半45分、アイルランドが放り込んだ様式美すら感じさせられるほどゆるやかな放物線を描いたハイクロスにスペインのセンターバック・イエロは慌てた。 ゴール前でヘディングでボールを競り落とすという特命を帯び、ドイツ戦同様その落下点にいち早くポジショニングしていたクインのユニフォームを思いきり引っ張り、またしてもPKを与えてしまう。 イエロにしてみれば「主審が1試合のうちに同じチームに二度もPKを与えるはずがない」とタカをくくっていたのだろう。 今度はロビー・キーンがきっちり決めて同点、試合は延長に入った。
 延長前半、途中から守備固めで入っていたアルベルダが負傷退場し、既に交代のカードを使い切っていたスペインは残りの数十分を10人で戦うはめになってしまう。 この時サッカーの神様は紛れもなくアイルランドに勝利をプレゼントしようとしていたのだった。 しかしアイルランドは神様の好意を反故にしてしまった。 相変わらず単調な攻めに終止し、先守防衛に徹する自衛隊と化したスペインに引導を渡せなかったのである。 かくして神様はアイルランドに愛想をつかす。 PK戦では神の手厚い御加護を受けたカシーリャスの意のままになり、アイルランドのワールドカップは終わりを告げた。
 決勝トーナメントっていいものだ、と思った。 負ければそこですべてが終わる明日なき戦い。 それはどこか夏の甲子園にも似てすがすがしくもある。 アイルランドも自分たちのできることはすべて出し尽くして、敗れ去った。 敗者もまた勝者なのだ。 そして我が日本代表もこの決勝トーナメントの舞台に駒を進めたのである。 「あとは散り方だな。 負けるのであれば玉砕あるのみだ。」 日本代表について何の幻想も抱かぬ僕は、極めて現実的にその「負け方」について思いを巡らしながら、早くも気を取り直してアイルランドの応援歌の大合唱に包まれた店を後にしたのであった。(2002/7/7出稿を再録)
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by theshophouse | 2004-11-02 23:33 | 蹴球狂の詩 | Comments(0)
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