横山秀夫の警察小説に完全にハマってしまった。 もう他の作家を読む気すら失せてしまった。
『クライマーズ・ハイ』を読んでからというもの、その魅力に取り憑かれ、既に文庫化された数々の横山作品を読み耽っている。 映画化された『半落ち』に『出口のない海』、三ツ鐘警察署に勤務する7人の男を7つの事件で切り取った『深追い』、D県警本部の内幕を活写した『陰の季節」、珠玉のオムニバスである『動機』、F県警の3人の刑事の覇権争いを描いた『第三の時効』、期せずして事件に巻き込まれていく市井の人々の心理を描いた『真相』、終身検死官の独創的な推理と生き様を綴った『臨場』。 どれも読む者の心を捉えて離さない。 なかでも、F県警捜査一課・強行犯捜査一係の一班の朽木、二班の楠見、三班の村瀬という、それぞれに強烈な個性を持ち、各々がまったく違ったアプローチで事件の真相に迫る三人の刑事の姿を描いた『第三の時効』は出色である。 また、「終身検死官」の異名をとるL県警捜査一課調査官・倉石を主人公に、その非凡な鑑識眼と組織に囚われない生き方を描いた『臨場』も爽快な読後感をもたらしてくれる。 横山秀夫の警察小説は、警察小説でありながら捜査の第一線に立つ刑事や捜査員が主人公になることは稀だ。 そのことが彼の警察小説を彼の作品たらしめている。 彼の多くの作品で主人公になるのは警察という組織のなかでは裏方的な警務課など管理部門の人間である。 そこに派手な事件や突飛な謎解きはなく、日常から滲み出てくるような、それでいて生半可な推理では及びもつかない結末が待っている。 先に取り上げたのは、そんな横山作品のなかにあって捜査員が主人公となっている作品であり、僕にとって最も印象的だった二作品である。 他の横山作品同様、いずれも短編集のスタイルをとってはいるものの、収録されているいくつかのエピソードには連続性があり、一冊で完結する構造になっている。 並行して読んでいた村上龍の『半島を出よ』とついつい比較してしまったせいかも知れないが、村上のそれがただ単に情報を積み重ね、てんこ盛りにすることで重厚にする足し算の手法なのだとすれば、横山の場合それは用意周到に練られたプロットを、漆黒の闇という塊から鋭利なナイフで削り出して成形していくような引き算の手法と言えるのかも知れない。 そのことは物理的に検証することができる。 両者の本をパラパラと見比べてみても、『半島を出よ』が膨大な活字で埋め尽くされ、紙に余白が少ないのに対して、『第三の時効』や『臨場』は余白が目立つ。 例えばアップテンポな曲をつくる時、一定のシークエンスの中に音符をたくさん置くだけではスピード感はでないものだ。 むしろ休符を上手く使うことでそれが可能になる。 一切の虚飾を廃し、行間に豊穣な思いを封じ込めた横山文学に感じるのは、そんな「引き算の美学」である。 ホルモンでーす(ドラマと映画の比較) クライマーズ・ハイ(映画のレビュー) クライマーズ・ハイ(小説とドラマのレビュー)
by theshophouse
| 2007-12-19 22:34
| Books
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