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感動はありがたくない!
 オリンピックの季節がやってきた。 なぜだかこの僕はオリンピック放送には縁がある。 初めてテレビで観たオリンピックはモントリオールだった。 この時は小学生だったが、オリンピックが夏休み期間中に開催されていたこともあり、僕はほとんど連日テレビの前から動けなかった。 そのせいで宿題はまったくといっていいほど手付かずで、新学期が始まって苦い思いをしたのを覚えている。 でもそんなことよりもよけい覚えているのは体操の加藤沢男の平行棒の金メダルや塚原光男の月面宙返りだった。
 それでもさすがに大学を卒業して仕事に就くと、僕とオリンピックのテレビ観戦との蜜月も終焉の時を迎えるかと思われたが、何と急性肺炎をわずらって一ヶ月間の入院を余儀なくされ、ソウルオリンピックもベッドの上でほぼ完全に観ることができた。 アトランタは駄目だろうと思っていたら、ちょうどその頃は勤めていたインテリア・ショップを辞めて独立しようという時期で、思いのほかテレビ中継を見ることができた。
 その四半世紀の間、主に日本人選手の応援をしながらテレビの前に座りつづけた僕だが、四年ごとにその応援が過熱度を増していくのと反比例するようにわがニッポンはメダルを減らし続けてきた。 理由はさまざまだ。 第三世界の参加国の増加による未知の強豪の出現、他国の恒常的なレベルアップ、競技によってのプロの参加の容認などの諸要素によって、日本選手がたちうちできる競技はお家芸の柔道だけになりつつある。 事実アトランタで日本が獲得した金メダル3つはすべて柔道によるものだった。
 しかし何よりも日本が金メダルを減らし続けている理由は、選手個々の意識の変化に負うところが大きいと僕は思う。 ひところの日本人選手は「目標はもちろん金メダルです。 金メダル以外は敗北に等しい。」というようなことを言ってはばからなかった。 ところがである。 今の日本人選手の口から聞かれる言葉はどれも「オリンピックを楽しみたい。」に代表されるイベント参加型がステレオ・タイプである。 これでは勝負事に勝てようはずもない。
 こうした現象は一時期の金メダル至上主義的な世論の高まりに押され、そのプレッシャーのあまりに本番で実力を発揮できずに終わり、マスコミからも槍玉に挙げられたりする選手が続出したために、個々の選手が自然に身につけていった自己防衛本能に他ならない。 その発言は「金メダル→ベストを尽くす→楽しむ」と、時代に応じて徐々に変化してきた。 ただこうした現象のうち日本選手だけに見られることがある。 それは金メダル候補に挙げられている選手までもが「楽しみたい。」という発言になってしまうことである。 これが他の国のメダル候補となると「私は金メダルを取るために生まれてきた。 他の誰にも金メダルは渡さない。」である。
 これは金メダルを期待する周囲のプレッシャーから自己を解放し、より平常心で競技に臨めるようにしようという競技者自身の自己暗示的な側面もあるが、金メダルを確信して競技に望む外国選手とのメンタル面での優劣は如何ともしがたい。 まがりなりにも一国を代表して競技に臨むのである。 そこに至るまでに自分が踏み付け、踏み超えてきたものの大きさを考えれば「金メダルが目標です。」ぐらいのことは義務として言うべきではないだろうか。
 またこうしたイベント参加型のアスリートが増えた理由には、そうした時期のみ日本中に突如として蔓延する感動症候群すなわち「夢をありがとう、感動をありがとう」を声高に叫ぶ人々の存在である。 この「感動をありがとう、夢をありがとう」という陳腐な標語を考えたのはいったい何処の誰なのだ? それはまるで街角で見かける「世界人類が平和でありますように」の看板と同じレベルで無意味だ。 本来美しいはずである「夢」や「感動」といった言葉をこれほど詭弁化する文章を僕は知らない。 これを考えた人には今すぐ名乗りでて全国民に即刻謝罪撤回してもらいたい。 夢や感動に「ありがとう」を言うのは断固として間違いだ。 夢や感動は一人一人の心の奥にこそ訪れる。 横断幕に「感動をありがとう」なんて愚の骨頂、ナンセンスとしか言いようがない。 シドニーで日本選手を応援するスタンドにそんなものが映らないことを祈るばかりだ。(2000/9/11出稿を再録)

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by theshophouse | 2004-10-29 23:26 | Critique | Comments(0)
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