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クライマーズ・ハイ
 読み終えた本が溜まってくると、頃合いを見計らって古本屋に持って行くようにしている。 僕の部屋の本棚が小さいせいもあるが、面白い本は他の人にも読んで欲しいと思うのでそうする。 ただし駄本は持っていかない。 常々駄本には古本屋の流通に還流される資格はないと考えているので、そのまま資源ゴミとして出す。 当然の報いだ。 そしてそれは、不覚にもそのような資源ゴミと同義の本を古本屋の棚から引っ張り出すという愚を犯した自分自身への戒めの儀式でもある。
 「クライマーズ・ハイ」はそのどちらにも属さない本ゆえに、僕の部屋の本棚にずっとある。 文庫化されてから購入し、もう3回も読んだ。 ついこの間読み終えたはずなのに、何気なくページをめくって活字を追ううちにいつの間にか作品世界に引きずり込まれて通読させられてしまう。
 そもそも僕はこの話を最初にNHKのドラマで観た。 ドラマ自体の出来も素晴らしく、こちらも何度か再放送されている。 このように秀作と評価されるドラマを先に観てしまった場合、後からその原作を読むと物足りなさを感じてしまうことがままある。 しかし、このクライマーズ・ハイは原作そのものが素晴らしかった。

クライマーズ・ハイ_b0045944_11352448.jpg 1985年夏、同僚の安西と谷川岳の難所・衝立岩登攀に挑もうとした矢先、日航機墜落事故の発生を受けて全権デスクを任された群馬の北関東新聞の遊軍記者・悠木。 物語は、悠木を通して未曾有の航空機事故に遭遇した地方紙の世界を描きながら、同時に息子との距離感に苦悩する父親の姿も捉えていく。
 著者の横山秀夫は上毛新聞に記者として勤務していた頃に日航機事故に遭遇している。 言うまでもなく本作のベースになっているのは、その時新聞報道の最前線に居た人間のみが知りえた膨大な事実である。 そこに12年間に及ぶ氏の報道現場での経験が深みを加え、作品に圧倒的なリアリティを与えている。

 日航全権デスクとしての数日間、悠木は多くの壁に直面する。 毎日の紙面作りに忙殺されるなか、次第に自壊していく報道人としての矜持。 そんな時、悠木の叱責が遠因となって事故に見舞われ死んだかつての部下の従姉妹である望月彩子が持参した一通の投稿が悠木の心を激しく揺さぶる。
 17年後、かつて安西と登るはずだった衝立岩に、その安西の息子・燐太郎と挑む悠木。 第一ハングを登攀中、あと数センチのところでハーケンに届かずアブミから足を踏み外してあわや宙吊りになる。 観念しかかったその時、つかみ損ねたハーケンが自分の息子・淳によって父親のためにその場所に打ち込まれたものであることを燐太郎から告げられ、一度は折れかけた心をふたたび奮い立たせる。
 時間も空間も違うふたつの出来事が、悠木を前に、上にと駆り立てる。 物語の舞台である衝立岩は登攀者が征服しなければならない難所そのものでもあり、人間が生きていくなかで乗り越えていかなければならないものの象徴でもある。

 と、たったこれだけの書評を書くのにすごく時間がかかってしまった。 自分の稚拙な筆はこの素晴らしい作品を語るにはあまりに無力と知る。
 8月12日、ニュースは御巣鷹の尾根に日航機が落ちて22年がたったことを伝えていた。 僕は今、事故当時のことを思い返しながら4度目となるページを繰り始めている。


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クライマーズ・ハイ(映画のレビュー) 
横山秀夫中毒者の独白
Uncontrol !
by theshophouse | 2007-08-15 11:48 | Books
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