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広島のお好み焼きについて
 その土地の名物、旨いものを食べるというのはいいものです。 福岡の大学に通っていた頃、僕はよく友達と、講議を終えてからクルマで広島へお好み焼きを、長崎へちゃんぽんを、熊本へ馬刺やちょぼ焼きを食べに行っては、深夜になって福岡に舞い戻るといった「日帰り食いしん坊バンザイ!」とでもいうべき活動を実践していました。
 特に広島は、子供の頃はいとこが住んでいたので遊びに行き、今では弟が住んでいることもあって特に愛着のある街です。 これまでに20回以上広島を訪れました。 あるときは中沢新一のシンポジウムを見るためにお金をけちって、平和公園のコルビジェぽい丹下健三の作品の前でクルマを停めて一夜を明かしたことなどもありました(朝、目を覚ますと両側を修学旅行の観光バスに挟まれていて、中学生たちの冷ややかな視線を浴びていた)。 その主な目的は前述したように「お好み焼きを食べる」という一点に絞られていました。
b0045944_12113841.jpg 広島には「お好み村」というのがあります。 いわば広島型お好み焼きのメッカともいえる場所です。 僕が通っていた頃は二階建てのバラック(今はきれいなビルになったらしい)で、確か1階と2階にそれぞれ8軒ずつ、つごう16軒のお好み焼き屋が市場のような配置で店を構えていました。 当時の僕は友達と1軒ずつ、しらみつぶしにお好み村を制覇していったのです。
 誤解を恐れずに言うと、広島のお好み焼きというものは、のどを通る前はお好み焼きかも知れませんが、のどを通ったら最後、ほとんど焼そばです。 最初はそれなりのインパクトがありましたが、2軒3軒と食べていくうちに感動は薄れ、「福岡にある大阪風のお好み焼きもそこそこうまいからなあ。」とやや邪念も混じり始め、純粋だった広島型お好み焼き追求の情熱にも翳りが見え始めました。
 地元の人に言わせると「本当にうまいのはお好み村なんかじゃなくて他にあるんだよね。」と、いかにも物知り顔で言います。 まったく地元の人っていうのは日本全国おんなじようなことを言います。 だいたいにおいて、メッカと呼ばれるところは観光地化し、大量の客を相手にするうち質の低下を招き、形骸化していく運命を辿るものです。 結果、もともとは二番煎じだった店がサブカルチャー的熱狂のもとに、いつのまにか本命になっていくのです。 こうした例は広島のお好み焼きに限らず、日本はおろか世界中に数知れぬほど存在します。
b0045944_12115567.jpg すっかり前置きが長くなってしまいましたが、こうした広島のお好み焼きの権力闘争とは無縁の、一軒のお店を紹介します。 その名も「一休さん」。 何だか名前からしてレイドバックしてしまいそうですが、確かに不定期に休んだりするのであながち嘘でもなさそうです。
 一休さんは広島市の舟入町にあります。 店の看板には現在でも「甘党の一休さん」と書かれており、「もともとはあんみつ屋か何かをやっていたのに客に恵まれず、仕方なくお好み焼き屋に鞍替えしたのだろう。」と容易に推察することができます。 僕が気に入ったのはこの店が「お好み焼きなんて所詮その程度のもの」と考えている点です。 実際にそうなのかはマスターに聞いたわけではないのでわかりませんが、少なくとも鞍替えして始めた程度のお好み焼き屋です。 お好み焼きにそれほど強いこだわりがあるとは到底思えません。 しかしながらこの店のお好み焼きは圧倒的にうまいのです。
 広島ではよくあるパターンなのですが、店の中にはおでんなんかもあり、客はセルフで勝手にとって食べています。 常連客はビールさえもセルフでジョッキについでは飲んでいます。 お好み焼きのテイクアウトもできます。 店内は見事に広島弁の男たちに占領されていて、慣れないとヤクザの連中のなかで食べているみたいです。 岩国の米軍基地からも、この「ジャパニーズ・ピッツァ」に取り憑かれた男たちが大挙してやって来ます。 ある時、連中は一台の軽自動車に12人も便乗してやって来たそうで、今では伝説となっています。b0045944_1212427.jpg マスターは40代後半で現役サーファーです。 奥さんと二人で店を切り盛りしています。 いい波が来た日は店を閉めて日本海の荒波にボードを漕ぎ出すのです。
 もともとこの店を最初に知ったのは弟で、会社の同僚から教えてもらってから通いだし、今では週のうち4日はここのお好み焼きで夕食を済ませるといったハマりようです。 やはり血なのでしょうか。 初めて連れていかれた僕も見事にハメられました。 そのうまさを文章で表現するのは不可能です。 「歯ごたえ満点のソバの麺を縁の下から支える香ばしい生地、口中でソバと渾然一体となってうまさを引き出す玉子焼き、ほどよく塗られた甘辛いソースに彩りを添える青のりの香り」などと言っても、実物のうまさの一割も表現できたでしょうか。 時に言葉は無力です。
 広島に行って下さい。 そして食べて下さい。 そして五感を総動員して味わうのです。 その土地のうまいものは、そうすることによってのみ体感することができるものです。 僕はそれまで通っていた東京・下北沢の広島風お好み焼き屋と、地元の世田谷・経堂にある広島風お好み焼き屋には金輪際行くことはないでしょう。 本場っていうのはそういうものです。(1999/5/12出稿を再録)
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by theshophouse | 2004-10-17 12:19 | Food
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