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世田谷一家殺人事件 侵入者たちの告白
世田谷一家殺人事件 侵入者たちの告白_b0045944_15554726.jpg 以前のエントリーでも書いたように、この事件が起こった上祖師谷4丁目は以前僕が住んでいた場所にけっこう近い。 警察官が聞き込みに来るぐらいの距離である。 だから、その当時この事件には相当震撼させられたものだし、事件から5年以上が経過した今でも、心のどこかに沈殿している恐怖が顔をのぞかすこともある。
 それはやはり僕が、偶然とはいえあの事件現場の宮澤みきおさんの家の前を通りかかったからだと思う。 なぜそこが宮澤さんの家だとわかったかというと、今でも家の前にはパトカーが停まっていたからであり、おそらくは車内では、今もここを訪れる者たちの姿をビデオカメラで撮影しているものと思われる。 またそれにも増して、隣家とはかけ離れ、陸の孤島になっているこの宮澤さんの家の周囲だけが奇妙な静寂に包まれ、ふと足を止めてしまうからでもあった。
 本作はこの事件を発生以来追い続けてきた一人のジャーナリストによって書かれている。 この人物については元週刊新潮の記者だという話もあり、胡散臭い噂があることも事実である。 齊藤 寅という名前は偽名だろう。 先日テレビ出演した際にも「実行犯グループに狙われている」ことを理由に顔を隠していた。
 本の帯には「ついに犯人を突きとめた!」と衝撃的な言葉がある。 僕が好奇心でこの本を手にしたように、事実この本は売れている。 この一介のジャーナリストが、莫大な印税を手にすることは疑いようもない。 それだけこの事件が未だに多くの人々の心の一隅に闇を形成しているということなのだろう。
 その内容だが、まず第一に難しい言葉が多い。 それは、現在ではあまり慣用されなくなってしまった言葉であったり、ジャーナリストと捜査関係者の間で交わされる専門的な業界用語であったりする。 前者はこの本の内容に重みを与えるために無理やり重用している感すらある。 それはあたかも最近テレビのワイドショーに頻繁に出演し、コメンテーターを務めている北芝 健氏の言葉遣いを思い起こさせる。 ただ彼の場合は発言の中での言葉の選択が稚拙だったり不適当だったりするので僕はついつい笑ってしまうのだが。
 後者については、自分が捜査の最前線にジャーナリストの立場で如何に介入しているかということと、通常は取材者と被取材者との平板な言葉のやり取りに臨場感を与えることを狙ったものだと思われる。 ただ、いずれの手法も、この重厚なノンフィクションとなるべきタイトルには相応しくない。
 内容的には、世田谷の事件と前後して起こる複数の殺人事件と、それに関与したと思われる外国人の犯罪組織、その組織を構成する人物が描かれているなかで、やや時系列が混乱して相互の事件と人物の関連がわかりづらいと感じた。 これは作者の筆力の無さに起因するものだろう。 もっとも作者は「ついに犯人を突きとめた!」興奮のうちに本書を記しているので、そのあたりがまだ整理不足なのかも知れない。 また、行き過ぎた感情表現が多く、なおかつそれが読者に伝わってこないので辟易してしまう。 総合的に判断すると、この作者はあまり長編の文章をまとめた経験がなく、残念ながらノンフィクション・ライターとしての職能には恵まれていないと感じた。
 作者は本作のなかで最終的にこの世田谷一家殺人事件の犯人を「クリミナル・グループ」と呼ばれる外国人の犯罪集団であるとする。 そしてその主犯の男の写真を入手したとも書いている。 先日とある写真週刊誌がこれとは別に世田谷一家殺人事件の首謀者と目される人物の顔写真を掲載した。 一方で週刊朝日に自著を「疑惑のベストセラー」と断じられた作者・齊藤 寅氏がこれに反論する検証記事も掲載した。 写真週刊誌側は齊藤氏に犯人の写真の公開を求めたが、同氏はこれには応じなかった。
 果たしてこの作者がトンデモ系で本書もトンデモ本なのか? それとも丹念な取材の末に真実を掴んだジャーナリストが自らの危険も顧みず記した乾坤一擲(けんこんいってき)の著作なのか? それは犯人が逮捕されない限りわからない。


FLASHの掲載記事(PDF)
by theshophouse | 2006-07-26 16:11 | Books
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