タイトルからして「オシム監督語録」的な薄っぺらい内容の本かなあと思っていたのだが、そうした予想を見事に裏切ってくれる実に重い内容の一冊だった。 もちろん随所にオシムの発言が取り上げられ、その発言の背景などが紹介されている、いわゆる語録的な部分も多いのだが、それでもこの本は語録ではなくオシムの半生記である。
第二次世界大戦さなかの1941年、旧ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)のサラエボに生まれたイビツァ・オシムの半生は常に戦争と紛争の只中にあった。 現役時代はストライカーとして活躍し、ユーゴ代表にも名を連ね、1978年、フランスのストラスブールでのキャリアを最後にユニフォームを脱いだ。 1986年 ユーゴ代表監督に就任。 ストイコビッチ、サビチェビッチ、プロシネツキと、後にマルセイユ、ユベントス、レアル・マドリーでそれぞれ10番を背負う類まれなタレントをピッチで共存させ、1990年イタリアW杯ではユーゴをベスト8に導く。 準々決勝でアルゼンチンにPK戦の末敗れはしたものの鮮烈な印象を残した。 ユーゴスラビア連邦は1991年からの内戦によって崩壊。 生まれ故郷を追われたオシムはギリシャ、オーストリアでクラブの監督を歴任し、2003年からジェフユナイテッドの指揮を執っている。 親日家のオシムだが、その端緒は1964年、東京オリンピックに出場するユーゴスラビア代表の一員として来日し、この時生まれて初めてカラーテレビを鑑賞して感激したことと、農村をサイクリング中に、見ず知らずの外国人にいきなり梨を振舞ってもてなす日本人のホスピタリティに触れて感激したことにあったと言われる。 当時の日本がまさに物心両面でオシムを魅了したことは、後の日本サッカーにとって大いなる僥倖であった。 そのオシムがジーコの後を受けて日本代表監督に就任した。 本書を読んでオシムの事を好きにならない人間はまずいないだろう。 その言葉の端々に見え隠れするのは、サッカー、そして人間への深い洞察と愛情である。 現段階で僕はこの監督をジーコの時のように批判できる自信がまったくない。 ひとつにはオシム・ジャパンがまだ船出前で無傷の状態にあるということと、もうひとつはオシムが監督やってだめだったら、それはもう完全に選手が悪いと確信をもって言えるからである。 ジーコの場合、その選手としてのキャリアに異論を差し挟む余地はまったくなかったものの、監督経験がないという点において、僕のようなものでも批判する余地が残されていたと思う。 ところがオシムにはそれすら存在しない。 オシムは日本代表が迎える初めての完璧な監督と言っていい。 日本サッカーはドイツW杯惨敗直後、川淵会長の自爆会見と中田の電撃引退によって、その総括もなされぬままオシム体制へぬるっと移行した。 それによって敗戦のショックは多少癒されはしたが、ドイツでの惨敗の責任の所在も明確にされぬまま次の4年間を迎えることには同意しかねる。 川淵会長はオシム招聘と引き換えに腹を切るべきだ。 オシムは代表選手選考について「古い井戸に水が残っているのに、すぐに次の井戸を掘るのはどうか」と語った。 これから我々は、彼一流のメタファとレトリックの意味を読み解く才能を鍛えられることだろう。 それはこれまでの代表監督にはなかったもうひとつの知的な「ゲーム」である。
by theshophouse
| 2006-07-21 21:55
| Books
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