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野球馬鹿の系譜【WBC総括その3】
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 「くちゅじょくてきです。」 二次リーグでふたたび韓国に敗れた後のイチローのコメントだが、僕にはそう聞こえた。 屈辱。 イチローにとって、それは言い慣れない言葉なのだ。 やはりイチローに屈辱は似合わない。
 今大会は、メディアを通して伝えられるイチローの言葉に溢れていた。 言葉だけではない。 多くの「叫び」もあった。 ワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)は第一回目の開催。 松井らメジャーリーガーの出場辞退も相次ぎ、日本国内でも大会の格式がサッカーのW杯のように崇高なものとなるのかどうか疑問視する声もあり、正直国内でアジア予選が始まる前はたいして盛り上がってはいなかった。 しかし、日々伝えられるイチローの刺激的な言動は、やや醒めていた国内でのWBCへの関心を徐々に引き付けていった。
 これまで「孤高の求道者」であったはずのイチローが、「JAPAN」のロゴが入った帽子を被った途端に饒舌となり、チームへの思いを熱く語るのである。 それは巷で言われているように、ともすればその圧倒的なキャリアが障壁となり、チームメイトとの間に精神的な乖離を生んでしまうことを恐れたイチローが、自ら野に下ってチームの一員になるための通過儀礼だったのかも知れない。 マリナーズという弱小球団で常に優勝争いからも見放され、勝利へのモチベーションを失ったチームの中で、ただひたすらヒットを打つことのみを宿命づけられた孤独な戦いの中で見失っていた、或いはそれがイチローの真の姿なのかも知れない。
 イチローについてのさまざまな言説が出尽くしたなかでこれ以上想像の域を出ないことを言っても仕方ない。 ただひとつ言えるのは、この男が「野球馬鹿」というぐらい野球が好きなのだということ。 昔の野球選手にはこの「野球馬鹿」の匂いが確かにあった。 長嶋も王も野村も偉大なる「野球馬鹿」である。 振り返って今の野球選手たちのなかに野球馬鹿を見い出すのは難しい。 現代の野球選手たちは高給取りになり、ドイツ製の高級外車を乗り回し、ファッショナブルになり、バラエティー番組に出演する。 広島の前田やロッテの黒木のように、現在のプロ野球界の中にも極めて少数派ながら野球馬鹿の匂いを漂わせる選手がいるにはいるが、悪い意味で今のプロ野球選手はスマートになりすぎたのだと思う。 思い起こせば僕が好きになるのはみな野球馬鹿というべき選手たちだった。
 ここで問題になってくるのが「野球馬鹿の基準」なのだが、例えば清原は人気選手だが、野球馬鹿の範疇には入らない。 野球馬鹿は当然優れた成績を出すし、四六時中野球の事で頭がいっぱいなのだ。 清原が残してきた成績は普通だ。 毎年2割7分、25本は打ったかもしれないが、それだけだ。 存在感などという評価基準の曖昧な理由だけで今年も野球ができる彼は幸せだが、僕は彼から何も感じないし、これほど人気があること自体よくわからない。 野球選手・清原の人気のほとんどは皮肉にも野球以外の部分にある。 これでは誉れ高き野球馬鹿の称号は得られない。
 新庄も野球馬鹿とは対極的な位置にいる選手だ。 ただ、野球選手そのものとして見ると、清原よりはるかに優れている。 そういう意味では野球馬鹿になる素質を十分に持っている選手なのだが、どこでどう間違ったのか、彼はその道から外れ、「野球芸者」になることを選んでしまった。 ただそれはそれで彼の生き方なので文句を言うつもりはない。 自分は野球馬鹿のタイプじゃないと自覚している新庄と、野球馬鹿と言われたいのに野球馬鹿になれない清原の違いは大きい。
 人気選手二人を例に挙げて説明してみたつもりだが、僕の言わんとする野球馬鹿の定義がおぼろげながらわかっていただけたのではないかと思う。 イチローは、もちろん野球馬鹿だった。 その野球馬鹿がこれまで以上に言葉においても表現者となり、その時々の感情を包み隠さずぶちまけるのである。 野球好きならずとも見ていて夢中にならないわけがない。 イチローの言葉の行間を読めない一部の被害妄想大国から反感を買いはしたものの、そのことも結果的にWBCを盛り上げる起爆剤となった。 それは、当初盛り上がりに欠けていたWBCを危惧したイチローが敢えて打ち上げたアドバルーンだったのかも知れない。 終わってみれば、すべてがイチローの描いた筋書き通りになっていた。
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 今回イチローは「日本」や「日の丸」にこだわっていた。 誤解を恐れずに言うと、ナショナリズムに身を委ねることは心地良いことである。 今回日本中を席巻したのは、野球というスポーツによって喚起された一過性の純粋でヘルシーなインスタント・ナショナリズムであり、どこかの国の「愛国無罪」的偏狭なナショナリズムとはまったく性質を異にするものである。 僕に言わせれば日本の右傾化を危惧している国の極右化の方がよっぽど深刻である。 僕は平和主義者だし、祭日に国旗を掲揚することもない。 左翼は大嫌いだが、右翼も嫌いだ。 ただ、右も左もなく「国士」でありたいと夢想することはある。 今回のイチローはまさに国士だったと思う。 そのうえリスクを背負うことを承知で誰と向かっても臆面なく心情を吐露するイチローの態度は、この国に蔓延する様々な閉塞感に風穴を開けたのではないだろうか。 多くの日本人がイチローの姿に共感を覚えたのは、日本人のあるべき姿の一端を、彼がその言葉と行動で垣間見せてくれたからだと思う。
 WBCで大切な宝物を手に入れたイチロー。 WBCの次回開催は2009年。 三年後、ふたたびあの熱いイチローがそこにいるはずだ。
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by theshophouse | 2006-03-28 10:05 | Critique | Comments(0)
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