韓国戦前から担げるだけのゲンを担ぎ、その重さにフラフラになりながらも仕事場に向かい、仕事場の隅に鎮座しているテレビのスイッチを入れる。 いつもどおりに仕事をしながらも、視界の隅にテレビを常に捉えた状態で、試合情勢の変化に対応する準備はできていた。 あらかじめ昼食も買い、スキをみて食べるつもりだ。 ただ、試合開始の時には完全に画面に集中していたのである。 そんななかで行われた日テレの暴挙。 トリノの「NHK荒川静香日の丸ウイニングラン・カット事件」が頭をよぎる。 ところがそんな不安を一掃するように日本の選手たちが躍動する。 西岡とイチローがチャンスメイクし、多村の押し出し死球と小笠原の押し出し四球、今江のタイムリーで初回に一挙4点を先制。 5回には多村の内野安打と小笠原の犠牲フライで2点を追加。 9回にはイチローのタイムリーと代打福留のタイムリー、小笠原の犠牲フライでとどめの4点。 先制、中押し、ダメ押しの理想的な得点を、松坂 - 渡辺俊 - 藤田 - 大塚のリレーで封じ切り、追いすがるキューバを10対6で振り切ったのだった。 交代で出てきた渡辺俊が5回の裏を3人で片付けたあたりから、僕は何だかよくわからないけど泣けてきてしまった。 ただそれも日本が7回の守りでミスを連発し、8回に1点差まで追い上げられると一気に涙腺は閉じ、頬を伝うのは冷や汗に変わってしまった。 本来なら1イニングのみの大塚が8回1死で緊急登板し、続く二人を仕留めたのは本当に大きかったと思う。 9回、相手に傾きかけた嫌なムードを日本に引き戻したのはやはりイチローだった。 ここぞのタイムリーに川崎が神業的なスライディングで貴重な追加点。 あのままキャッチャーが腰を落としていたら、彼の右手は折れていただろう。 とても勇気あるプレイだった。 続く代打福留のタイムリーで今度はイチローが相手捕手のタッチをかいくぐって生還。 さらに小笠原が打ち上げた浅いライトフライに、松中がこの日二度目のタッチアップで本塁突入。 決して俊足とは呼べない男の気迫のスライディングは、キャッチャーの落球がなくてもセーフだっただろう。 この日ノーヒットながら押し出し四球を選び、ふたつの犠牲フライを打ち上げ3打点を記録した小笠原は、目立たないけれど間違いなく勝利の立役者である。 9回、必死の形相で次々とホームに帰ってくる日本の選手たち。 報酬でもなく、ましてやもちろん兵役免除でもなく、ただ目の前にあるものをつかみ取ろうとするその姿に、僕は心を揺さぶられた。 そして彼らの目の前にあったもの、それはやはり「栄光」だった。 視界の中で歓喜の声を上げる彼らの姿が滲んだ。 かつて僕は今回のWBCを「茶番」と断じた。 アメリカのアメリカによるアメリカのためのWBCにしか思えなかったからだ。 しかし、メキシコがアメリカに勝ってくれたおかげで日本が韓国にリベンジする千載一遇の機会が生まれ、日本はそのチャンスをモノにした。 決勝にもそのままの勢いを持ち込んで、キューバ投手陣を粉砕し、優勝という望外の結果を得た。 終わってみれば、アメリカのアメリカによるアメリカのためのWBCであったはずの大会が、「イチローのイチローによるイチローのためのWBC」になっていた。 MVPこそ松坂に譲ったものの、多くの日本人はMVPにイチローを選ぶことだろう。 もしボブのような工作員に三度も助けられたアメリカが準決勝に進んで、結果優勝でもしていたら、この大会は本当の茶番でしかなかった。 また、二次リーグまで6戦全勝という好成績をあげながら、準決勝で日本に敗れたためにベスト4に甘んじなければならなかったのが悔しいのはわかるが、その事で日本の優勝を「きまり悪い優勝」だの「恥ずかしい優勝」だのと揶揄し、相変わらず民度の低いところを見せつけ、開催期間中に唯一のドーピング違反者を出し、WBCに泥を塗った韓国が優勝していても同様だろう。 負けを受け入れ、勝者を称えられない国に永遠に勝者になる資格はない。 茶番になりかけたWBCを救ったのは王ジャパンであり、イチローだ。 日本こそWBCの初代王者に相応しいチームだった。 ただ、それもすべてはメキシコのおかげだ。 アメリカ戦の前日ディズニーランドで派手に遊んでいるメキシコの選手を見た時、「こりゃもうアカンかも」と正直思ったが、彼らがアメリカに2点を取って勝ってくれたからこそ、今日の王ジャパンの栄光がある。 6ラウンド、ボディーを打ち合った両者だったが、やがて亀田のローブロー(相手の下腹部を殴ること:ボクシングにおいてはトランクスのベルトラインより下を殴ることは反則となる)気味の左ボディーアッパーが入ってボウチャンは失速。 ボウチャンもセコンドもレフェリーに対してローブローをアピールするも認められず、更に連打でたたみかけた亀田はさらにもう一発ローブロー気味の左ボディーアッパーを食らわせ、ボウチャンはたまらずダウン。 以下は試合後のボウチャンのコメントと検証画像である。 「亀田は序盤からローブローを打ってきたが、6Rは特にひどかった。 レフェリーに訴えたけど、何もしてくれなかった。 亀田は強いが、再戦するなら日本では試合をしたくない。」 完全にローブローです。 本当にありがとうございました。 これははっきり言って、親愛なるメキシコ人に我々日本人一億総懺悔の状況なのである。 いくら序盤でKOできないからといって焦り、反則パンチを連発した亀田興毅と、不公正なジャッジをしたレフェリーに成り代わり、僕はカルロス・ボウチャンとすべてのメキシコ人に謝罪したい。 本当に済まなかった、と。 おりしも3月15日、日本の命運を握るメキシコ対アメリカ戦の前日、皇太子様はメキシコで開催される「世界水サミット」にご出席されるために皇居をお発ちになったが、それはあくまで表向きの理由に過ぎず、真の目的は傷心のまま帰国したボウチャンをねぎらい、亀田の非礼を詫び、メキシコ国民へネゴして下さることにあったと見るべきだろう。 その結果がメキシコ奇跡のアメリカ戦勝利、である。 日本の皇室外交が、王ジャパンを蘇生させたのだ。 皇太子様、ありがとうございます。 そして、ビバ・メヒコ! ムチャス・グラシアス!
by theshophouse
| 2006-03-23 01:52
| Critique
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