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開けられたパンドラの箱
 今回の耐震強度偽装問題で改めて考えさせられたことがある。 「性善説」についてだ。
 第一義的には人々の生命財産を守るべき建築。 その確認審査において、その審査機関が「性善説に乗っ取って」審査していたとはお粗末だ。 イーホームズという会社はこの業界で2位にランクされる会社ということだが、今回問題になっているような規模のマンションだと通常一人が2~3日かかりきりになってようやくチェックできる構造計算書を、この会社ではたった二人で年間2,000件もこなしていたという。 一人あたり一日に3件以上のペースだ。 これはもう審査以前の問題、やっつけ仕事以下である。 恐らくただ目の前に積み上げられた構造計算書などロクに見ずに申請を通していたのだろう。 同じ業界でトップシェアを誇る日本ERIにしても同様に偽装を見過ごしてきたという。 業界1位と2位がこんなトンデモ企業であることから考えると、この業界がいかに狂っているかがわかろうというものだ。
 我々の社会は、ありとあらゆる方位階層でこの「性善説」という砂上の楼閣の上に形成されている。 例えば、僕は毎日仕事でクルマを運転するけれど、中央分離帯のない対面交通の道を走る時はやっぱりちょっと怖い。 でも走らないわけにはいかないので走る。 対向車が中央線を越えて僕のクルマに突っ込んで来たりしないという「性善説」を前提に。 「会ったこともない人間のハンドルさばき」という極めて不確実な要素に保証されているのが僕のこれまでの人生だった。 ただ幸いにして、今日までその不確実な保証は破綻をきたしてはいない。 ただそれは、「たまたま」そうだったというだけのことだ。 そしてまたこの場合、相手から見れば僕のハンドルさばきこそが「不確実な要素」となる。
 例えば、蛇口をひねり水を飲む。 もちろん水がめのダムや浄水施設にこの水がある時に、細菌兵器や生物兵器を混入されていないという「性善説」を前提に。 無論いちいち水を飲むたび、その成分を知るためにわざわざ水源地まで出掛けて行くこともできないし、土を掘り返して水道管に不審な点がないか確認するわけにもいかない。 僕ができることといえば、せいぜい水の色を見て、匂いを嗅ぎ、口に含んで飲み込む前に妙な味がしないか検分することぐらいだろう。 つまり、便利になる、文化的になるということは、不確実性を内包するということである。
 究極的に言えば、「文化」とは、すべてが性善説に立脚した「善意の善意による善意のためのシステム」の上にあるべきものだろう。 かつて我が国には、そうした理想形に近い牧歌的で良識的な社会があった。 しかし、善あるところに悪あり。 逆もまた真なり。 ありとあらゆる善意を排除し、悪意に対しては二重三重のファイヤーウォールを用意し、それに加えて悪意なきヒューマン・エラーすらも吸収し収斂できるようなシステムを構築したとしたら、それもまた究極の「文化」となりうるだろう。
 そして我々人間は、かつてジャン・ボードリヤールが予見したように、前者の原始的文化の時代から後者のマトリックスのような仮想現実的文化へと移行していくしかないのだ。 現代はその過渡期にあり、そしてこの過渡期は当分続くだろう。 こうしたカオスにおいて不確実性をなるべく排除するには、個々がその時々で直面する事物に実証主義的にアプローチしていくしかない。
 今回のケースにおいて言うなら、市場価格に対して法外に安い販売価格へ疑念を抱くこと。 これぐらいは誰でもできるだろう。 さらには専門家等からの意見を聞いて理論武装し、配筋図の矛盾点を洗い出すこと。 これは現実問題としてなかなか難しい。 さらに言えば、型枠が組まれた頃に建築現場に通って、配筋工が図面通りの太さの鉄筋を図面通りのピッチで施工しているかどうかを自分の目で確認することである。 実際にはほぼ不可能だ。
 今回の件に限らず、マンションを購入する方の多くがモデルルームの段階で購入を決めるという、いわば実体なき仮想現実のなかで高額な購入契約を交わす現行のシステムは、マンション建設における通常の資金の流れからいっても当分変わることはないだろう。 こうした現状のなかでリスクヘッジするなら、たとえ最上階の部屋に入居できなくとも、東南の角部屋でなくとも、竣工後、然るべき検査を行ったうえで初めて購入契約を結ぶべきだ。 そうでもしない限り、枕を高くして眠れる家には住めない。 もちろんほとんどの物件はちゃんとつくられているはずだが、我が国の建築業界にそうした暗部もあることは認識しておきべきだろう。
 姉歯氏やヒューザー、木村建設やイーホームズは、パンドラの箱を開けたのだ。


そして黒幕登場?
[PR]
by theshophouse | 2005-12-01 23:28 | Critique
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