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長浜ラーメン史上最強の店
 福岡出身の悲しき性がそうさせるのか、食事時に街中をクルマで流していて、「九州ラーメン」とか「長浜ラーメン」といった看板が見えるとついつい寄ってみたくなってしまう。 その日もそんな具合だった。
 初めて入るその古そうな店には、入口のところに食券機があった。 初めてなのでなるべくその店のスタンダードなものを食べようと思い、それらしいものを探してみるのだが、いわゆる普通の「豚骨ラーメン」がない。 そばにいた店員に「普通のはどれですか?」と尋ねてみると、「フツーのはとんこちゅしょゆです。」と言われた。
 「長浜ラーメン 世田谷店」という名前の店でありながら、ただの豚骨ラーメンもないばかりか、店員はみな中国人。 別に中国人に恨みはないが、こうした場合に中国人が店員であることには大きな不安が伴うのは言うまでもない。 今思えば、この時点で店を出て行くべきだったのである。
 店内の壁には名前もロクに聞いたことがない芸人のサインと、近くの明治や日体大の体育会系の学生たちが、頼んだ替え玉の数を色紙に書いてサインをしているものが貼りめぐらされている。 しかもみな7玉も8玉も替え玉を頼んでいるのだ。 こういうのを見ていると「まあまあ旨いのかな」とさっきまでの不安も少しは薄らいできた。

b0045944_20504583.jpg ラーメンを待つこと約5分。 目の前に出されたどんぶりからは鰹節の強烈な匂いがする。 豚骨醤油味でありながら、鰹節でダシをとっている。 いや、さっきどんぶりの中に謎のドロドロとした茶色の液体を最初にぶちまけていた。 きっとあれが濃縮された「鰹エキス」なのだ。 だけどなぜ鰹なのだ? どんぶりの周囲には灰汁がこびりついている。 フリーズドライに失敗したチャーシューの死体みたいなのが浮いている。 今思えばこの時点で店を出て行くべきだった。 しかし僕にはその勇気がなかったのである。
 恐る恐る麺に箸をつける。 細麺のくせにヘンに縮れていて、「かため」を頼んだのにまったく腰もない。 想像した通り、超濃厚な鰹節のダシ汁につけて食べるつけ麺のような味だ。 この時点でかすかな希望は絶望へと変わった。 今思えばここで食うのをやめるべきだったのである。 無言で店を出て行くべきだったのである。 しかし僕にはその決断ができなかったのである。
 それから先の数分間は生き地獄さながらだった。 ラーメンを食べていて生命の危険を感じたのは、僕の40年近い生涯のなかでも初めてのことであった。 僕はスープにはいっさい手をつけなかった。 「飲んだら逝く」という確信があったからだ。 なかば自らに課した拷問のように麺を食道に送り込みながら、薄れ逝く意識のなかで、ここに貼ってある無数の色紙に言葉を寄せた糞芸人や糞学生を呪った。 それと同時に、居合わせた店の常連とおぼしき男たちに目をやりながら、「おまいらなに旨そうに食ってんだよ!?」と心の中で絶叫した。 こいつらは紛れもなく味覚の基地外どもだ。 ここで替え玉を頼むなんてビョーキだ。

 もしこの店がこの「長浜ラーメン」という看板のままで博多に出店したら5秒ともたないだろう。 長浜ラーメン協会(そんなのがあったらの話だが)は名誉毀損でこの店を訴えるべきだ。 東京に住んでて長浜ラーメンの何たるかを知らない多くの人が、既にここの「長浜ラーメン」を食べて長浜ラーメンに絶望し、断崖絶壁から身を投げているのは想像に難くないからだ。
b0045944_21103574.jpg もしこの店が「おかか豚骨醤油灰汁ラーメン」だったら、僕もここまでは書かない。 それ以前に、店に入って被害に遭うこともないからだ。 この店には、長浜ラーメンを看板にしているにも関わらず、長浜ラーメン的なものがただのこれっぽっちも存在しない。 これは商法上、著しく不公正な表記と言わざるをえない。 これまで書いてきた厳しい評価は、あくまでこの店に正統派の長浜ラーメンを食べに来た客の評価であり、この店に何の先入観もなしに入った場合はその評価も違ってくるだろう。 しかし、この外観で「長浜ラーメン」を期待しないで入ってくる初めての客なんて、僕はいないと思う。 誰一人としていないと思う。

 半死半生になりながら麺だけを食べて、転がるように店を出た。 口の中は、死ぬほど大量のおかかをぶち込まれて無理やり咀嚼させられ飲み込まされたかのような、これまで経験したことのない次元の強烈な後味が横溢している。
 帰って速攻で口の中を消毒した後、さっそくこの「長浜ラーメン 世田谷店」の評判をググってみたが、みなまずまずの評価であったのには腰を抜かしそうになった。 しかもレビューを書いてる人の中にはラーメン評論家然とした奴までいるから呆れる。 おまいらの舌は何か食ってそれを評価するには恐ろしく不適格だ。 唯一少しはマトモなレビューを書いてあったのはココ(10月3日の日記)ぐらいだった。 もっともこの人にしても「個人的に嫌いじゃない」と書いているのだが・・・。
 ラーメンなんて人それぞれに好みはある、とは思う。 ただそれも最低限の基準あってのものである。 世の中には最低の店と最低の客が確実にいて、最低の店は最低の客によって支えられている。 そんなことを改めて思い知らされた昼下がりだった。

 この店にはホームページがあった。 しかも「nagahama-ramen.com」などという出来すぎたドメインを取得している。 ページを見てもらえればわかるが、この「NAGAHAMA」のタイポグラフィーは日本人が絶対使わない類のものだ。 ハリウッド映画の中で「アメリカ人のイメージの中の日本人」なんかを表現する時に多用される紋切型だ。 さらに、超少数派ながらこの店にまっとうな評価を下している貴重なサイトを発見した。 この方の味覚が普通なのであって、この店をうまいとか言ってる奴は何か悪いクスリを常用してて味覚が麻痺しているとしか言いようがない。 しかし、この方は、合計3度もこの店に足を運んで評価をしている。 あるいは回を重ねるごとに病みつきになるような麻薬性をもったラーメン屋なのか? この方の評価も回を重ねるごとに甘くなっていってるし・・・。 ちなみにこの方は、この店のオーナーの名前が「長浜」なので、「長浜ラーメン」と名乗っているという大胆な仮説を立てておられる。 とにかくここのラーメンは、いわゆる「長浜ラーメン」などでは断じてない。
 僕もこの店に最終判断を下すために、決死の覚悟でまた特攻しなければならないのだろうか。 いや、どんなにカネを積まれてもそれだけはごめんだ。 そもそもこの店はいつも賑わう大繁盛店なのだ。 僕がまた行く必要などまったくない。 しかしながら、とにかく僕もこれだけ最低の評価をした罪滅ぼしに、この店を多少なりとも宣伝する逆説的義務がある。

「さあ、君もラーメン一杯の超絶体験をしてみないか?」

※写真は「さすらいのラーメン道」さんからお借りしました。 
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by theshophouse | 2005-10-06 00:00 | Food
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