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お涙ちょうだいはもう結構
 先日、ニュージーランド(以下NZ)で働いていた妻の友人が帰国したので新宿で食事した。 彼女は大のK-1好き(とりわけNZ出身のレイ・セフォーがお気に入りである)で、これまでは僕が日本で録画したビデオテープをNZまで送っていたのだが、彼女が帰国する前にようやくグランプリだけはNZでも放送されるようになって、初めて向こうの仲間と一緒に観たのだが、そこで武蔵がセフォーやアーツを破って準優勝するのを目の当たりにし、「あれは胡散臭かったね。」と切り捨てた。 僕も同感である。 武蔵が急に強くなるなんてオカシイ。
 で、テレビの話題は続き、なかでも彼女イチオシの番組がアメリカの「Queer Eye for the Straight Guy」という番組だそうで、NZでも放映されているという。 直訳すると「マトモな人をオカシな目で」というこの番組は5人のスペシャリストから成るオール・ゲイのチームが、さえないノンケ(ノーマル)の対象者の服から髪型、インテリアや食事、果てはライフスタイルに至るまで徹底的に口出しし、彼ら固有の美意識に基づいてすべてを矯正してしまうという全方位的リフォーム番組なのである。 彼らは対象者の家に踏み込むなり大袈裟に顔をしかめ、「オーマイガッ!」「ナンセンス!」「ストゥーピッド!」を連発。 やがて彼らの息がかかった対象者は、それまでの野暮が一変、見事洗練された暮らしを獲得するのである。
 彼女曰くNZでも「あ、この人趣味いい。」とか「彼はなかなかの洒落者だわね。」なんて思ったりすると、たいていその人はゲイなのだそうである。 この番組は、NZ同様ゲイが市民権を得ているアメリカならではの番組であろう。 日本で同様の番組を作ろうとしても、既にテレビで顔の売れている(=カミングアウトしている)ゲイの方は、どちらかというとケバイ系の趣味の方なので、本当にお洒落な方々を指南役として迎えるにはまだ機が熟していない気がする。 そうした方々はまだ自分がゲイであることを公表せずに、日常の仕事の中で普通に才能を発揮しているはずなのだ。
 日本の現状ではせいぜい見かけだけの「お父さん改造講座」とか家だけの「大改造!劇的ビフォーアフター」など特化されたジャンルにおいてのみのリフォームコーナーや番組が存在するが、僕はこの「大改造!劇的ビフォーアフター」が嫌いである。 何が嫌いって、あの「匠(たくみ)」ってのが「あらやだ、ダサーい。」なのである。 まああの番組自体が「匠によるリフォームが必要な方はご応募下さい」と呼び掛けているわけで、応募した方々は、先代の使っていた大工道具が形を変えて階段の手摺になろうが、亡くなった主人愛用の茶碗がダイニングテーブルのガラスの天板の下にご丁寧にも箸などと一緒に飾られて、食事の度にご主人の事を思い出すことを強制されようが構わないどころか、願ったり叶ったりなのであろう。 もっとも、番組でリフォームされる家の多くが、身内が亡くなられた直後であることは、支払われた死亡保険金と無関係ではないはずで、言わばリフォームの「功労者」に敬意を表して、と考えるのは下衆の勘ぐりか。
 人それぞれと言ってしまえばそれまでだが、僕は身内の遺品をこれみよがしに建物の一部に使う、或いは使われるのを許容する感覚はとうてい理解できない。 そんなものはそっと引き出しの中にでもしまっておいて、時折取り出して自分だけが見れればそれでいいと考える。 ただ、この「遺品の転用もしくは再利用」は所詮エンターテイメントに過ぎないこの番組の必要条件と化していて、建築家のセンセイ方にとってもやりにくさはあるだろう。 本来は「老朽化して住みにくかった空間がリフォームによってこんなにも快適に生まれ変わりますよ」という部分のみ提示してあげれば良かったものが、依頼人の過去の人生にも深くコミットし、過去の生活や記憶をリフォームそのものにも取り込んで、そうした連続性まで表現しなければ「匠」とは呼ばれないからだ。 しかもそうした作業は職人任せにすることなく、自分で木工所に赴き、自ら製作しなければならないのである。 ふつう建築家のセンセイは図面は描いても木工作業などそう簡単にできないものだと思うのだが、匠と呼ばれるセンセイ方はみな例外なく器用でいらっしゃるので問題はないのである。
 番組がブレイクしているがゆえの弊害もあると聞く。 まずはその工事費用の安さである。 むろん設計・デザイン料を除いた価格だが、その価格は僕から見てもかなり良心的なものである。 例えば職人の日当などは、東京と地方では5千円から1万円も違うので、地方で500万でできても東京では700万かかったりするのだが、素人さんにはその辺の事情がよくわからない。 さらに依頼人が、番組でやってるような匠の技を熱望し、肉親の形見なんかを持参して「これを使って下さい。」と要求する。 それ自体普通のリフォーム業者には非常に難しいことなのである。
 そもそもこの番組の真髄はリフォーム・セラピーとでもいうような精神医療番組に他ならず、その手段として物質的な家屋のリフォームという外科手術を施しているに過ぎない。 プロデューサーは、リフォームされた家を初めて依頼人が訪れる時、そうした「匠の技」によって記憶の琴線に触れられて落涙してしまう依頼人を映像に収めた時、「してやったり」となるのだろう。 「世界ウルルン滞在記」を例に出すまでもなく、良くも悪くも我々日本人が喜ぶのはこうしたウェットな感覚であり、「Queer Eye ~」のように、よってたかって依頼者を小バカにしてジョークまじりに明るくヘンシンさせるドライなものはあまり望まれていないのかも知れない。 ただ個人的に見てみたいのは明らかに後者、「Queer Eye ~」である。 お涙ちょうだいはもう結構、である。(2004/3/23出稿を再録)

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by theshophouse | 2004-12-14 22:47 | Critique
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