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お疲れさま。
 つねづね日本は疲れに寛容な社会であると思うのである。 誰もが一日の仕事を終えるとごく自然に「疲れたー。」と口にするし、「お疲れさま」なんていうように挨拶にすら「疲れ」という言葉が入っている。 こんな国は日本だけではないだろうか。
 で、この「お疲れさま」という言葉に潜む日本人の心理というものに考えをめぐらせてみた。 我ながら暇である。 英語においては「お疲れさま」を意味するような言葉は存在せず、それは或る時「Good job.」であったり、「Good bye.」や「Good night.」であったりするかも知れない。 くたびれた相手に対して労をねぎらう場合もあれば、ともに仕事をして疲労を共有した相手に対して、その日一日の別れの言葉に使われたりもする。 この「疲労を共有」する感覚が日本人特有のものではないかと考えた。 僕もこれだけ働いて疲れた。 共に働いた彼も疲れたであろう。 だから同僚に「お疲れさま」と一声掛けるのはごく自然なことなのである。 少なくともこの日本という風土においては。 裏を返せばこの「お疲れさま」には、この世に疲れてない奴など誰もいないはずであるという奇妙な国民的連帯感が存在してはいまいか。
 果たして日本人はそれほど疲れているのか? このところの癒し系ビジネス市場の急激な拡大はそれを裏付けるものなのかも知れない。 通勤地獄、時間外労働、リストラ、ドメスティックバイオレンス、なるほどオトナたちはたいへん苛酷な社会を生きている。 通勤電車でみんな目をつぶっている日本人は外国人から見れば異様である。 子供たちも例外ではない。 イジメや受験戦争で疲れた子供たちの眼は一様に光を失いつつある。 もはや日本列島全体が「疲労」というバイオ・ハザードにどっぷり浸かっているかのようだ。
 ニュースによれば香港や台湾の足裏マッサージ店は今SARS禍で開店休業状態だそうである。 最大の要因は顧客の8割を占める「疲れた」日本人観光客がさっぱり来なくなったからである。 彼らにとって日本人は、何故か一様に疲れていて、大枚を払って自分たちに今日の糧を与えてくれる有り難い存在でしかない。 こうした状況から端的に言えることは、香港人や台湾人は疲れを知らず(疲れてなんかいられないのである)、日本人だけがただただ疲れているということである。 更に言えば疲れるなんてことはかなり贅沢なことで、精神的にも経済的にも余裕がある所以ではないか。
 サッカーファンであれば、昨年イタリア・セリエAのレッジーナに移籍した中村俊輔がすぐに覚えたイタリア語が何であったかを覚えているはずである。 それはスタンコ(stanco:疲れたの意)という言葉であった。 彼は練習が終わるやいなや「スタンコ!スタンコ!」を連発。 会見時には「センプレ・スタンコ(常に疲れはある)」と、ことさら自らの疲れを強調していた。 このあたり、いかにも日本人的である。 一方で俊輔の魅力はこうした生来もっている典型的な日本人像をあまり変えることなくイタリアというサッカー先進国にフィットしていったことにあり、ヒデのような明らかに日本人の規格外の存在感とはまったく異質のものである。
 よく外国人は肩が凝らないなんて話を聞くが、実際はそうではなく肩凝りという症状そのものを自覚していないに過ぎない。 「お疲れさま」という言葉ひとつに見られるように、良くも悪くも日本という社会は「疲れ」というものの存在を是認し、共生してきた文化と歴史がある。 そしてこのような日本型ストレス共生社会というべきものは、今後他の国々のモデルとなるのではないかと思う。 先進国を中心に世界は今後さらに高ストレス化社会への道を着実に歩むと考えられるからである。 でもストレス分野でのリーディング・カントリーなんてのは汚名以外の何物でもなかろう。
 たけしは栄養ドリンクのCMで「疲れたことなんてないよ!」と言う。 僕もこれからは「疲れた」なんて易々と口にするのはやめようと思う。 疲れた、なんて今の僕には贅沢すぎて似合わない。 疲れてる暇なんかないのだ。(2003/7/9出稿を再録)

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by theshophouse | 2004-12-11 23:51 | Critique
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