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歪んだ日本人
 タイはバンコクのカオサン・ロードにあるゲストハウス「グリーン・ハウス」で先日殺人事件が起こった。 ヘロイン中毒の34歳日本人男性が同宿の日本人女性を殺害したのである。
 グリーンハウスはかつて僕の常宿だった。 今から12年以上も前の話である。 その頃グリーンハウスにおいて日本人はマイノリティーに過ぎなかった。 ゲストハウスではチェックインの際に大学ノートの宿帳に氏名・国籍・パスポートナンバーなどを書かされるのだが、当時の宿泊客はギリシャ人やドイツ人が中心で、日本人はほとんどいなかったのを覚えている。 カオサン・ロードというエリアにすらまだそれほど日本人が流れ込んで来ていない時代だった。 グリーン・ハウスは喧噪を極めるカオサン・ロードのメインストリートから幅1メートルほどの路地をジグザグに進んだところにある。 僕がこの細い路地に迷い込み、グリーン・ハウスを見つけたのは単なる偶然に過ぎなかった。 前夜に宿泊したゲストハウスがキャバレーの上階にあり、僕は今ステージの上で寝ているのではないかと錯覚するほど、終夜騒音に悩まされたからだった。
 それからというもの、僕はこの隠れ家のようなゲストハウスをバンコクの拠点とした。 部屋がきれいなわけではない。 スタッフが親切というわけでもない。 シャワーからお湯が出るわけでも、トイレに便座があるわけでもなかった。 それでも僕はここが気に入った。

b0045944_0123731.jpgグリーン・ハウスのベッドと壁掛けファン
ベッドのマットレスの厚みは約5cm 背筋が伸びる
b0045944_0142627.jpgグリーン・ハウスのトイレ兼シャワールーム
このように便座がある場合は非常に幸運という他ない シャワーは恒常的に出が悪い チョロチョロである
 僕という人間が生来できないことのひとつに「常連面をする」ということがある。 できることなら一度はやってみたいと思っている。 行きつけの店で常連っぽく振る舞うなんてことができたら、乾いたこの人生がどんなにか味わい深いものになるだろうと思っている。 しかし、それができない。 グリーンハウスでもできなかった。 しかし、1年おきに宿泊したりすると宿の主人の方が顔を覚えていたのか「あんた去年も来てたかい?」なんてことを聞く。 これぞ千載一遇の常連面を行使するチャンスなのだが、そんな時でも僕は「うん、来てた。」と言うに過ぎなかった。
 グリーン・ハウスに最後に泊まったのは1997年のことである。 その時は正直グリーン・ハウスの変わりように驚いた。 日本人はグリーン・ハウスにおいてもはやマイノリティーではなくマジョリティーとなっていた。 看板も掛け代えられ、GREEN HOUSEという英文の下に日本語で「緑の家」なんて書かれる始末。 カオサン・ロードの日本人も増えていた。 日本人は大別すると3つに分類できた。 1つめはバックパッカー初心者でカオサンへも初めてかそれに等しいぐらいというような人。 2つめは世界中を貧乏旅行するなかでカオサンをターミナルとして使っている「常に旅の途中」の人。 3つめはバンコクを手始めに世界中を旅するつもりで日本を出てきたのにバンコクの淀みにはまってこの地で「沈没」している人。 今回殺人事件を起こした男は典型的な3つめのタイプで、グリーンハウスに長期滞在し、何をするでもなく毎日を無為に過ごしていたようである。
 僕はこのうち2と3の人たちが本当に苦手だった。 「常に旅の途中」の人の多くは「旅自慢」するために旅行している人がほとんどで、自分が世界の辺境でどんなにあぶない橋を渡ってきたかというような武勇伝と危機的状況に置かれた際のケース・スタディ-などをを知り合ったばかりの1の人たちに聞かせては尊敬と羨望の眼差しを集めるだけ集めて、いつの間にかいなくなっている、という輩である。 「沈没」している人は真っ昼間から遠くを見つめるような目をしているのですぐわかる。 どこに行くわけでもない。 ビザが切れる頃、マレーシアとの国境まで行ってビザを更新し、カオサンに戻ってくる。 どのくらいバンコクにいるのか尋ねると平気で「3年」なんて言う。 挙げ句の果てはドラッグに溺れ、行方不明になってしまう。 あまり日本で報道されることはないが、バンコクで行方不明になったり投獄されている日本人は非常に多い。

b0045944_017879.jpgグリーン・ハウスの貼り紙
「マリファナ吸飲及びあらゆる麻薬の使用についてはこれを厳格に禁止し、見つけ次第ただちに警察に通報します」との記載あり
 僕の友人の女の子はバンコクに住んでいる。 身ひとつでバンコクに乗り込んではや8年、今では雑貨店を経営する会社の社長、タイ語もベラベラ。 見かけもややタイ人と化しつつある。 そんな彼女の趣味は彼(タイ生まれの日本人)と一緒にカオサンに行って日本人ウォッチングをすることだそうである。 彼らはカオサンのメインストリートのカフェに陣取って、そのカフェとしては豪華なメニューを注文し、タイ語で会話しながら食事する。 するとどこからか小汚い格好をした自発的貧乏旅行者の日本人数人がやって来て近くのテーブルに座る。 日本人たちは言う。 「こいつらタイ人のくせにいいもん食いやがって。」 彼らはなるべく長くここに居るために、毎日いかに金を使わないで過ごすかを競っているので、リッチなタイ人には好戦的だ。 すると彼女たちは会話を突然日本語に戻して聞こえよがしに会話するのである。 小汚い日本人たちは驚き、やがて無口になるのだと言う。 彼らも自国へ戻れば人並みに生活しているであろうはずなのに、旅先では自ら好んで卑屈な生活を送っているのである。
 カオサン・ロードには、このように歪んだ日本人が常時数百人近く滞在している。 今回起こった事件はそうした現象を知るものからすれば、起こるべくして起こった事件であったと思う。 とはいえかつては僕の心の宿であったグリーン・ハウスが日本人によって汚されたという事実が、ただただ残念でならない。(2003/6/1出稿を再録)
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by theshophouse | 2004-12-10 00:23 | Asian Affair
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