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シンガポール旅行記 その10 明るい北朝鮮(エピローグ)
 この地に住む連れ合いの友人曰くシンガポールは「明るい北朝鮮」だという。
 たしかにシンガポールは開発独裁国家である。 新聞ひとつとっても英字紙「ストレイツ・タイムズ」、中国語紙「聯合早報」、マレー語紙「ベリタ・ハリアン」などがあるが、すべてシンガポール・プレス・ホールディングス社の新聞であり、この新聞社は常に政府と共同歩調だそうで、批判的な記事は皆無なのだそうだ。 唯一この新聞の一社独占供給体制の例外がタミル語紙の「タミル・ムラス」。 それでもこんな状況だとすぐに言論統制国家のレッテルを貼られてしまいそうだが、実際はそうでもないようで、基本的には政府のやることなすことに国民が全幅の信頼を寄せているので無問題なんだという。
 北朝鮮とシンガポールの大きな違い(笑)は何といっても建国の父のクオリティー、これに尽きる。 ご存知のとおり金日成はアレだが、リー・クアン・ユーはこの小国にはもったいないほどの辣腕政治家である。 クリーンキャンペーンの実施、バイリンガル政策、外資誘致政策、交通渋滞緩和政策といった極めて今日的な諸政策を世界に先駆けて実施し、シンガポールの基礎を築いた。
 クリーンキャンペーンは自ら先頭に立ってゴミ拾いを行ない、阿片窟と売春宿を根絶、ボウフラを発生させる水溜りを放置したら処罰の対象となるなど公衆衛生について様々な罰金制度を導入。 その結果シンガポールはご存知のように道端にゴミがなく、風俗産業もなく、また赤道直下の東南アジアの国でありながらほとんど蚊がいない国となった。
 バイリンガル政策については多民族各々の言語とは別に英語を共通語として普及させて民族融和をはかると同時に、海外との人的交流の障壁をなくし、グローバルビジネスの拠点としての今のシンガポールの地位を確立。 その結果シングリッシュが生まれた。
 国がキレイになって国民に教育が行き届くと次は仕事が必要になる。 そこで、外国資本を誘致するため法人税を大幅に引き下げて優遇した結果、アジア進出をもくろむ数多の世界的な企業が拠点を置き、多くの雇用も生まれた。
 国民の所得が増大し生活水準の上昇とともに狭い国土に自家用車が溢れ交通渋滞が起こってくると、市内中心部への乗り入れ規制(一台のクルマに4人以上乗車もしくは通行許可証を購入)を行ない、またクルマの購入に許認可制を導入するなど、極めて先進的かつ斬新なシステムを導入してこれを解決してしまった。
 一方、偉大なる北朝鮮の領導者は毛沢東に習ってコメの増産のために本来なら30cm間隔で植える稲を20cm間隔で植えて、単位面積当たりの収穫を1.5倍にしようという食料増産計画を実行したが、密集栽培が災いし、逆に日当たりと風通しが悪くなって収穫が激減し飢饉を招いた。 しかも、凶作の原因が栽培方法にあることに気づかず、この密集栽培は国策で今も続けられ、国民を慢性的な飢餓状態下に置き続けている。 その他の国家的な政策としては、日本人をはじめとする外国人の組織的拉致監禁政策、偽造紙幣の開発と流通政策、覚醒剤の製造販売、核開発政策(たぶん核実験にも成功していない)など、字面だけはシンガポールにひけをとらないが、要するに犯罪立国である。
 同じ独裁でもシンガポールは良い独裁。 だが、いくら良い独裁でもやっぱり独裁国家にはガス抜きが必要である。 そのガス抜きさえない北朝鮮では自らが「ガス」になる他ないので、次々脱北者が国外に逃亡している。
 罰金大国シンガポールではうかつにゴミも捨てられないし、ツバも吐けない。 立ちションなど以ての外だし、無許可では犬も飼えない。 横断歩道以外で道を渡れないし、迂闊に煙草も吸えない。 さぞかし息苦しい世界だろうと思いきや意外や意外、灰皿などない道端でくわえ煙草の人は昨今の東京などよりたくさん見かけるし、その足元を見てみると吸殻がふたつみっつ落ちているなんてこともけっこうある。 灰皿付きのゴミ箱など置いてあろうものならそれはもう砂漠のオアシスの如く吸殻の剣山が形成されていたりする。
 たとえそれが吸殻の山であろうとも、やっぱり僕は人間臭い場所が好きみたいだ。
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(LITTER FREE = ゴミから解放された)
by theshophouse | 2010-01-26 00:19 | Odyssey
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