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退屈なレアルのサッカー
 サッカーは失敗のスポーツである。 すべてのパスが間断なく運ばれ、その必然の産物として生まれるゴールもあれば、ゴール前のこぼれ球を蹴り込むような偶然のゴールもあり、これらはいずれも成功例である。 これを逆説的に言うなら、サッカーにおいてこうしたゴール以外はすべて失敗であるということである。 失敗の繰り返しという言わば漆黒の闇の中に、ゴールという一筋の光明を見い出すことが選手そして観客にとっての希望であるのだ。 サッカーが労働者階級のスポーツと言われるのはそうした性質によるものだろう。
 1月12日深夜、フジテレビで中田英寿の所属するパルマの試合の中継が始まり、それから約1時間後に日本テレビで中村俊輔が所属するレッジーナの試合の中継が始まった。 まったく民放の連中ときたら全然中継しない週があったり、稲本が出ていないフルハムの試合を漠然と放送したりしていることもあるというのに、このようにほぼ同じ時間帯に2試合もやりやがって。 連中のやり方は姑息だ。 そうして地上波しか観れない人々に飢餓感を与えてCS放送への加入を促進させようという狙いがみえみえである。 もう少し見る側のことも考えて欲しいものだ。 僕のように貧しくスカパーなんかに加入できない人間にとってこの日の「イタリア・セリエAで10番を背負う二人の日本人選手の同時中継」は苦痛このうえないものであった。 何しろ二人がほぼ同じ瞬間にゴール前でのフリーキックを蹴る局面があったのだ。 僕は手元のリモコンを小刻みにスイッチングして必死に両選手のプレイを追った。
 このように文句たらたらの僕だが、それでも二人のプレイが見れるに越したことはない。 僕は東京だからまだいいが、地方に行くと地上波ではまったくやってなかったりもする。 とにかくこれから二人の試合は全試合生中継できるようにスカパー側と交渉してもらいたいものである。 2002年のワールドカップを経て、今やふたりの活躍の是非は全国民的関心事であると言っていい。 二人の共通点は、それぞれチームの中で最も優れた資質を持っていながら周囲との連係の悪さからそれが十分に生かされていないという点にある。 俊輔の場合はゴール前にいいボールを供給しても味方のフォワードがそれを決めてくれない。 ヒデの場合はいいポジショニングをしているのにボールが来ない。 二人ともフラストレーションを溜めながらプレイしているのが画面からもありありとわかる。
 次の日はBSでスペインリーグ、セルタ対レアル・マドリーを観た。 サッカーをよく知らないという人でもレアル・マドリーというチ-ムのことは御存知かも知れない。 昨年末クラブ創立100周年を迎えた歴史あるチームだが、多くの日本人にとってほんの数年前まではさほど知られたチームというわけではなかった。 チーム生え抜きのスーパースター、ラウル・ゴンザレスやロベルト・カルロスといった選手は当時からいたが、レギュラーの中には他の選手と比べると明らかに力量の劣る当時のクラブの会長の孫ですら居場所が存在するようなチームでもあった。 しかし、近年チームはその様相を大きく変えその潤沢な資金でスーパースター漁りにやっきである。 こうしてフィーゴ、ジダン、ロナウドといった面々がチームに加わり、レアルは文字通りスーパーなチームになった。
 サッカーはむろん団体競技だが、つまるところ野球同様に選手個々のポテンシャルが試合を決めると言っていい。 類い稀な才能を持ったレアルの選手たちのパス回しは美しい。 誰一人として立ち止まる選手はいない。 パスを出しては走り、次にはパスの受け手になる。 サッカーでは基本中の基本のこの動作の繰り返しに多くの選手が複層的・戦略的に関わり合うなかで次第にボールは相手ゴールに近づき、やがてそのネットを揺らす。 レッジーナやパルマの試合のように、「なぜこれが決められないのか?」とか「なぜここにボールを出さないのか?」といったような不満を感じながら観ることはあまりない。 レアルにおいては我々がいつもテレビ画面で観ているピッチを俯瞰した視点でみんながチームメイトの位置を把握しているかのようだ。 ゴ-ルが生まれそうだと思った時にはゴールは生まれ、この選手がフリーだと思ったらその選手にパスは渡る。 そのさまはまるで出来のよいテレビゲーム上の出来事のようである。
 イタリアではサッカーのことをカルチョと呼ぶ。 カルチョはかつて都市国家の集まりであったイタリアにおいて、戦争の代わりに行われるようになった都市対抗の球技であり、その内容はむしろ現代のラグビーに近いものであった。 戦争の代わりに行うものであるため内容よりも結果重視である。 最後に勝てばいいのである。 いやむしろプライドを保持し続けるためには勝てなくとも負けなければいいのである。 そのためにはどうするか? 相手の長所をひたすら消すために激しい対人マークやボディコンタクトが生まれ、カテナチオ(かんぬき)と呼ばれる強固な守備、ゾーン・プレスなどの近代戦術が生まれた。 イタリアのサッカーはこうしたリアリズムによる呪縛から今も逃れられずにいる。 イタリアにおいてサッカーは別に美しくある必要はないのである。 近年のチャンピオンズ・リーグの結果から見る限り、かつて世界最高のリーグと呼ばれたセリエAは近年その代名詞をスペインのリーガ・エスパニョーラに譲り渡したと言ってもいい。
 一方スペイン人はサッカーに闘牛のような様式美と華麗さを求める。 スペインにおいてストライカーはマタドール(闘牛士)と呼ばれる。 ゴールは入れるのではなく仕留めるのである。 当然試合は美しくなければならない。 無骨なチャ-ジは御法度が暗黙の了解である。 イタリアのようにお互いが相手の良さを消し合うようなネガティヴでディフェンシヴな試合になることはほとんどない。 むしろお互い攻め合って好ゲームになることが多く、引き分け狙いの凡戦はおのずと少なくなる。 しかし、最初に述べたようにサッカーが失敗のスポーツであるとするなら、フラストレーションを溜めながら観戦するのが「流儀」であるとするなら、レアルの試合はつまらないであろう。 僕がこのような「流儀」を体得したのは昨年のワールドカップの時にアイリッシュ・バーでアイルランドの男たちとアイルランド代表を応援した時であった。 溜息八分歓声二分の応援が妙に心地よかったのである。 レアルの試合を観た時も溜息八分歓声二分には変わりないが、その場合の溜息は異質なものである。
 近代建築の祖ミース・ファン・デル・ローエはかつて「レス・イズ・モア(ないことは饒舌だ)」という名句を残したが、ロバート・ヴェンチューリは「レス・イズ・ボア(ないことは退屈だ)」とこれを揶揄し、ポスト・モダニズム建築のトレンドセッターとなった。 世界中から超一流のプレイヤーを集めて作り上げたレアルのサッカーは、ややもすると美しすぎてつまらなく、偉大ではあるが機械的で非人間的ゆえに過去の遺物となったモダニズム建築と重なる。 レアルのサッカーが退屈なのは僕だけだろうか?(2003/1/25出稿を再録)
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by theshophouse | 2004-12-01 16:11 | 蹴球狂の詩 | Comments(0)
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