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海角7号 君想う、国境の南

 ※ちょっとだけネタバレありです。

 「海角7号」は2008年に台湾で大ヒットした映画。 それも台湾における外国映画を含む興行収入では「タイタニック」に次いで史上2位、台湾映画としては歴代1位という破格の大ヒットなのである。 今回縁あってその映画の試写会に紛れ込ませていただいた。
 最初にこの映画のことを知ったのは昨年で、たまたま覗いた台湾人の方のブログ上でのことだった。 そして、台湾が日本の統治下にあった時代の日本人教師と教え子であった台湾人女性の悲恋のエピソードを下敷きにした、現代の台湾人と日本人のラヴストーリーだということを知り、いつか日本で公開されることがあるならぜひ観てみたいと思っていたのだった。
 自国の映画ですら日本の帝国主義時代については悪しざまに描かれるのが普通だが、この物語において日本の統治時代はちょうど終焉を迎えるところであり、良くも悪くも一緒に国家建設に邁進してきた台湾人と日本人が日本の敗戦によって突然の別離の時を迎えることから、ノスタルジーという文脈の上で好意的に捉えられている。 外国映画で描かれる悪辣な日本兵が一面の真実であるように、これもまた一面の真実なのだろう。 もっとも、台湾においては同じように日本の統治下にあった満州や朝鮮とは明らかに異なる様相が存在した。 映画のパンフレットには平野久美子氏が寄せた次のような記述がある。

 厚生省援護局の資料によると、先の敗戦によって海外から日本に引き揚げた人々は、軍民合わせて六百二十九万七百二人という。しかし、いまだに正確な数字がわからないのは、ソ連占領区となった満州や樺太、三十八度線以北の朝鮮では殺傷、略奪、拉致、餓死が相次いだためである。それに比べると台湾は奇跡的だった。大きな混乱も無く、全部で四十万を超える日本人が、米国の貸与したリバティ輸送船などに乗り込んで無事に離台できたのだ。

 戦後60年が経過しても未だに歴史問題で日本との軋轢が絶えない中国や朝鮮半島。 一方で、時折尖閣諸島の領有権をめぐって散発的な小競り合いが伝えられること以外目立った対立点もなく今日まで良好な関係にある日本と台湾。
 同じように統治されていた国でこれだけの違いが生まれたのは一体何故なのだろうか。 それについて書き始めるととても長くなってしまいそうな気がするので省略するが、端的に言えば、日本人と台湾人のメンタリティーには重なる部分が少なくなかったということになるのかも知れない。
 しかしながら、そうした日台の過去と悲恋のエピソードは、あくまで物語全編に流れる通奏低音に過ぎない。 この映画は本質的にはラヴストーリーであり、コメディ仕立てのバンドムービーであり、様々な挫折を経験した人々が集まり、ひとつの夢を結実させる群像劇である。
 アミ族やパイワン族など原住民と客家人(本省人)といった、それぞれルーツの異なる現代の台湾人の寄せ集めにすぎなかったバンドのメンバーが日本人の友子(田中千絵)という存在を媒介として一つに溶け合っていく。 劇中の言語は台湾語、北京語、日本語のマルチリンガルだが、台湾語と北京語の違いがわかるように字幕が工夫されていて、日本人の観客が台湾という国の多様性を理解するうえでも助けになる。
 周到に練られたシナリオも目を引く。 バンドの監視役の友子を含めた7人の主要な登場人物。 友子の乗ったロケバスと接触?して怪我をした茂(ボー)じいさん(林宗仁)の代わりに郵便配達夫の職を得た主人公の阿嘉(范逸臣)。 阿嘉の手で60年の時を経て届けられる7通のラヴレターに記された「海角7号番地」という、今の台湾には存在しない日本統治下の旧住所の宛先。 いくつもの「7」の符合。
 売れない日本人モデル・友子と、戦後日本人教師(中孝介)と悲恋の末に別離した小島友子(梁文音)。 おそらくは当時の皇民化政策によって彼女に与えられた日本式の名前なのであろう。 ここでも「友子」が重なる。 監督によれば「小島」という姓にも小さな島である台湾という意味が込められているという。 となれば「友子」という名前にも友邦への思いが込められていることは想像に難くない。
 そしてコンサート当日。 スコールが上がった後、不意に空に架かる虹。 それは日本と台湾を隔てた海への架け橋を象徴するものであり、60年間届けられることがなかった手紙が橋渡しされる前兆でもあり、阿嘉と友子の気持ちが通い合う予兆でもある。
 決して泣くような映画じゃないと思っていたのに、ラストの「野ばら」の合奏に涙腺の堤防は脆くも決壊した。

 最後にやっぱりどうしても触れておきたいことが二つ。 ラストへの壮大なネタフリであることは途中から薄々感じられたのだが、過剰なまでのキレキャラを演じた田中千絵(トニー・タナカの娘)への評価は観る人にとって分かれるところだろう。 ただ、台湾の人が思い描く日本人像としては、やはり一通のラヴレターすら出すことができなかった日本語教師の姿がそれなのであり、そんな「奥ゆかしい」日本人であるはずの彼女がキレまくることで本来自己主張の激しいバンドのメンバーたちが逆にまとまっていくという役回りでもあったのだろう。
 また、地酒「馬拉桑(マラサン=原住民の言葉で「酔っ払い」の意)」のセールスマンを演じた馬念先。 一度見たら百人中百人の視覚野に深く刻まれるであろう人相と、事あるごとに「マラサン!」と商品名である酒の名前(それが劇中での彼の呼び名になってしまうのだが)を叫ぶ特異なキャラクターだが、実在するお酒だそうで、このうえはぜひとも台湾を訪れて一杯やってみたいと思うのである。

 12月26日、シネスイッチ銀座を皮切りに全国で順次公開予定。 公開されたらもう一度、今度はチケットを買って観に行こうと思っている。


海角七号 - 君想う、国境の南 -
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by theshophouse | 2009-11-27 01:06 | Movie
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