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Stupid Hotel
 うちの妻が母君と新しくオープンした○○○○○ホテルに泊まってきた。 というのもこのホテルのインテリアをデザインしたデザイナーが我々の店を訪れ、スイートルームに置く家具の候補として私達の店の家具を検討していたからである。 結局その家具は採用には至らなかったが、その仕上がりは東京には未だ少ないいわゆるデザイン・ホテルであると聞き、見学がてらに宿泊しようと思ったからである。 しかしながら、楽しいはずの滞在を終え帰宅した妻は怒り心頭に発していた。 それは次のような出来事によるものだった。 妻の怒りの一日を再現する。
 妻が予約したのはもともとは一泊70,000円のスーペリアルームがオープン記念価格で59,000円となっていた部屋であった。 妻は受付でチェックインの際「支払いは現金でお願いします。」と言うと、係りの国籍不詳のアジア人に片言の日本語で「デポジット(前金)をいただきます。」と告げられた。 妻は予約時にクレジットカードの番号なども伝えていたにも関わらずである。 これだけでもはなはだ失礼な対応と言わざるをえない。 係りの人間は、せいぜい部屋代の50%ほどを払うのかなあと思っていた妻に対し、いきなり何の明細書も見せずに「88,000円頂戴いたします。」というのである! 何ということであろうか!? 妻が「59,000円の部屋ですよね?」と疑念に満ち溢れた問いかけをすると、係りの人間は「部屋代とサービス料と消費税とホテル税(東京都が最近導入した外形標準課税)の合計です。」と事も無げに言うではないか。 その後聞き取れないぐらい小声で「余った分はチェックアウトの際に返金します。」と言うのである。 しかしいくら何でもサービス料と消費税とホテル税ぐらいで59,000円の部屋が88,000円になるはずがない。 妻は何がどうなっているのかも分からないまま、言われた額を用意しながら必死に考えを巡らせた。
 後日、以前ホテルで働いていた友人にこの話をしてみると、彼女曰く、まず第一に宿泊客からデポジットを貰うのは予約なしに飛び込みでやって来た客に限られるという。 極端なケースだが、戦時下のホテルなどでも同様の扱いになるであろう。 そして、そこで要求する額はせいぜい貰っても部屋代までで、サービス料などは含まれないのが原則だそうである。 考えてみれば当たり前である。 まだサービスしてもらってもいないのに、その金額をあらかじめ支払わされるなんて馬鹿な話は聞いたことがない。 彼女によれば、この88,000円はオープン記念価格で割り引かれていない通常の部屋代をベースに算出してあるのではないかということであった。 しかし当時そのような説明は係りの人間から一言もなかったのである。
 チェックイン時にこのように非人道的な扱いを受けたため、滞在を楽しみにしていた妻の心は果てしなく曇った。 しかし驚くべきことにこの天下の○○○○○ホテルはまだ次の罠を用意していたのである。 驚天動地のチェックインを済ませ、なかば放心状態の妻に母君が声を掛けた。 「向こうでお茶はいかがですか?って言ってるわよ。」 そうだ。 いかにオープン記念価格とはいえ59,000円も払うのだ。 ウェルカムドリンクを飲まないわけにはいかない。 二人はラウンジでお茶を飲んだ。 しかしほどなくウェイトレスがやって来てふたりのテーブルの上に明細を置くのである。
 妻ほどではないが僕もそこそこ高級なホテルに泊まったことがある。 バリ島のアマンダリアマンキラ、バンコクのスコタイ、そしてマウイ島のハナ・マウイ。 値段は高いがそのホスピタリティーは価格に十分見合うものであった。 出張時に使う一泊5,000円クラスのホテルも含め、少なくとも僕は自らすすめた飲み物の代金を客に払わせるホテルを他に知らない。 なかでもアマンダリとアマンキラはチェックイン時にはわざわざホテルの支配人がゲストに挨拶しにフロントに出てくるようなホテルでありながら部屋代は600ドルほどで、○○○○○ホテルとほぼ同等なのである。 外国からのゲストはともかく、英語が喋れるからといってリクルートしたに違いない国籍不詳のアジア人に片言の日本語で日本人のゲストを応対させないでもらいたいものだ。 アジア人を蔑視する気など毛頭ない。 自分もアジア人であると思っている。 しかしここは日本の首都東京のど真ん中である。 まさに都市の、そして一国の品性が問われる場所にこのホテルは位置しているのである。 決して近所のエスニック料理屋ではないのだ。 その事をホテル側は再認識すべきだ。 結局妻たちは飲みたくもないお茶に2,500円も払わされた。
 部屋に着く頃には内心完全にキレかかっていた二人だったが、無論楽しむための今夜の滞在である。 自分たちの気持ちをどうにかおさめて部屋に入ると、そこでも二人を更にキレさせる次のトラップが仕掛けられていた。 それはボウルに盛られた、もとい置かれたウェルカムフルーツであった。 そこに鎮座していたのは何と梨(洋梨ですらない)1個とモンキーバナナ1本であった。 モンキーバナナ1房ではない、1本である。 それを見た二人の反応は次のようなものであった。 母君「客をバカにしてるわね。」 妻「フルーツの下に明細が置かれてるかも知れないわよ。」 僕はそのフルーツ皿をなぜ写真に収めてこなかったのかと妻に詰問した。 これは超一流と言われているホテルの実際がいかに貧相なものであるかを世界に曝すための極めて重要な証拠写真となっていたはずである。
 内装はいわゆる流行りのZENスタイルだ。 だからといってウェルカムフルーツまで精進フルーツのように置くのは無知な外国人のなせる業か? おそらく懐石料理か何かのビジュアルブック上の知識を忠実に再現したものであると考えられる。 日本人は何でもお皿に食べ物がちょこんと載ってる方が美しいと思うだろうという、あさはかな知識によってこのような所業に至ったに違いない。 日本人のみならず、宿泊した外国人のゲストにとってもこの仕打ちは理解に苦しむだろう。 そもそも二人が宿泊する部屋にモンキーバナナが1本という前代未聞・未曾有の事態をホテル側はどう解釈しているのだろうか? そのうち部屋で1本のモンキーバナナを奪い合ったバカカップルが殺人事件を起こしてしまい、ホテルの信頼失墜の危機に陥る可能性も否めない。 内装についてはデザイン・ホテルではあるが、特に目新しいものは何もない。 植物は盆栽が一つ置かれているだけである。 バスルームなどの小物も金属製のものばかりで非常にクールな印象。 都会の真ん中で色彩は寒色系、小物は金属製、リネン類もグレイ系ではいかにも寒々しい。 このベッドリネン、妻の言葉を借りれば「無印良品の特注」だそうである。 そもそもこのホテル自体がビジネスマンの利用客を対象にしており、そうした寒々しさも男性向けと言えば言えないこともない。 部屋ではプリンター、コピー、ファックス、スキャナーが使えると謳ってあるが何のことはない、ジャパネットたかたで周辺機器と抱き合わせで29,800円ぐらいで売られている複合機が1台無造作に置いてあるだけのことである。 この機器にしてもゲストが持ち込んだ端末にドライバソフトをインストールしなければ使えないに違いない。 プリンター用紙だってきっと有料に決まっている。 スキャナーにしても1スキャン200円などと請求されるかも知れない。 インターネット接続にしてもADSL回線が用意されているだけで、一日あたりの利用料を別途に取られてしまう。 スコタイ・ホテルなどは1999年の時点で、部屋のテレビが常備してある専用キーボードによってパソコンに早変わりし、インターネットもEメールも送ることができたのを覚えている。 このようなホテルは世界中に腐るほどある。 駐車場にしてもゲストですら無料では使えず、一日あたり5,000円も取られてしまう。 信じられないとしか言いようがない。 翌朝妻は朝食をルームサービスで頼んだが、一人前2,500円の内容は小さなパン3つとオレンジジュースとコーヒーのみであった。
 こういうとただただ粗悪なホテルであると思われるであろうが、その通りである。 しかしながらインターネットなどを眺めていると、このホテルへの宿泊客の評価は一様に高いから驚きである。 もしかしたらこれまで書き記してきたような非道な扱いを受けたのは妻たちだけなのであろうか? モンキーバナナも本当は1房あるはずのものが、妻たちの部屋だけ手癖の悪いメイドにつまみ食いされていたのであろうか? もしそうではないとしたら、泊まる側も果てしなくレベルが低く、○○○○○ホテルもそれを最初からわかっていて、日本人にはこの程度で十分だと思っているのだろう。 あるいはホテル内にメディア担当者がおり、連日残業しまくってホテル関係のページの掲示板などに宿泊客を装っていいことづくめの評価を書き込みまくっているに違いない。
 妻は客室に設置してあった宿泊アンケートを持ち帰り、チェックアウトしたその晩、記憶がより鮮明なうちに、主にホテルのサービス面についての不満を紙面の許す限りしたためて投函した。 ひとこと妻の名誉のために言うと、妻は普通こんなクレームをする類いの人間ではない。 妻もサービス業に従事している人間である。 つまりこの夜の滞在は、そんな妻でも文句を言わずにはおれないほど酷いものだったのである。 しかし投函してはや20日、ホテルからのリアクションはなにもない。 前出の友人によれば、このようなクレームのアンケートが舞い戻って来ると、だいたい支配人が署名した詫び状や宿泊割引券などを送るそうである。 割り引き客は客と見なされていないのだろう。 結局妻たちが支払ったお金は部屋代とサービス料と消費税とホテル税と飲みたくもなかったお茶代と貧相なルームサービスの朝食代の合計で73,973円であった。 チェックアウトの際に14,027円返してもらってトクした気になるわけがない。 ただミョーな気分になるだけである。 よしんばバスルームに設置してあったブルガリのアメニティー類(スパに設置してあるシャンプー類はマツキヨで買って来たような統一感のない代物だった)を全て持ち帰ったとしても元を取るには遠く至らない。 本来ホテル側にとっても有り難いはずである現金で支払おうとするだけでこれだけ嫌な思いをさせられるホテルは他にない。 たぶんセレブが宿泊する時には媚びまくるんだろうけど。(2002.12.24)

追記

 12月29日、○○○○○ホテル総支配人の署名入りの詫び状が届いた。 遅きに失した感はあるが、妻が指摘した点の改善の意志だけは確認させていただいた。 同様に妻が指摘した貧相なウェルカムフルーツ改善についての言及はなかった。 やはり美意識という点で我々と彼らは同じ地平にはないようである。 ともかく今後その名に恥じないオペレーションを期待するばかりである。 一流ホテルですら潰れてしまう時世ゆえ。(2002.12.31)

後日談

 新春早々フジテレビにおいて○○○○○ホテルのオープンまでの内幕を取材した番組が放送され、それを見た僕は卒倒した。 スポットライトを当てられた何人かのスタッフのうちの一人は、恐ろしくプロ意識に欠けるとしかいいようがない人物だった。 あきれはしたが、このようなスタッフが中心になって運営されているのであれば、先日の妻への対応も十分うなずける。 さらに、これもアメリカ式なのか、日本のモーレツ会社の新人研修にも似た、奇妙で幼児的でアメリカンなホームルーム、子供の頃に見たロンパールームを思い出した。
 しかし、ここまでは億歩譲って良しとしよう。 ただどうしても許せないのは、パリの一流レストランから引き抜いたフレンチのシェフに「パスタ」をメニューに加えることを半ば強要して困惑させ、客室係がゲストから聞かれた時にだけさり気なく答えればいいはずであるロビーのカーペットの出所を、テレビカメラに向かって「これはチベットの羊飼いが織ったものなんだよ」とさも自慢げに言う脳天気なだけのアメリカ人、妻に送られて来た詫び状に署名していたのはまさにこの総支配人であった。
 先に書いた奇妙なスタッフ教育の現場でも、スタッフの英語での接客などホテルの表層的な見かけの良さだけに力点が置かれ、本来あるべきもてなしの心は欠落している。 トップを仕切っているのがこういうもてなしの心のない人間である以上、このホテルはダメだ。 この僕が全責任をもって断言する。 行くだけ無駄だ。 されど僕は総支配人に苦言を呈したい。 いちど市井の人間に変装してでも自らのホテルに宿泊してみるべきだ。 そうして初めてゲストたちがどのように酷い扱いを受けているかわかろうというものである。
 このままではこのホテル、廃業は時間の問題である。 というか、このようなホテルがのうのうと売り上げを伸ばすような社会は不健全このうえない。 資本主義の競争原理に基づき淘汰されて然るべきだ。 こうなればいっそのこと宿泊料を7,000円ぐらいにしてはどうか? そうしたらひどい扱いをされたいマゾヒスティックな客で大盛況となること請け合いである。(2003.1.15)

あとがき

 2003年2月26日、同ホテルのスタッフからの知らせでこのページの存在を知ったホテルの副支配人から電話による丁重な謝罪の言葉を頂戴した。 それは十分に謝罪の意図が感じられるものであった。 ホテル側がこのような個人的なページの存在まで知るに至ったことに驚きを禁じ得ないが、これがインターネットというものなのであろう。 ホテル側から記事の削除依頼などは特になかったが、きちんと謝罪していただいた以上、ホテルに不利益な情報を掲載し続けるのは本意ではないので、こちらの判断でホテルの実名部分は伏せ、ホテルを特定できるような記述は可能な限り削除させていただくこととした。(2003/2/26出稿を再録)

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by theshophouse | 2004-11-30 00:06 | Critique | Comments(0)
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